吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

アルピニスト

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 わたし自身は絶壁をよじ登るなんて絶対にしたくないし、登山もそれほど好きではないのだけれど、超人的な登山家の映像を見るのはなぜか好きだ。これはどういうことだろう。自分では全くジョギングすらしない人でもマラソンや駅伝は一生懸命見たり応援したりするだろう。自分ができないことを見せてくれる人たちへの憧れなのか代償行為なのか、こういうのは心理学的には既に解明されている心理なのかもしれないが、とにかくこの手の映像は見ていて飽きない。

 飽きないということは、逆にいえば同じような映像を見せられ続けるといつか飽きてくるということでもある。そうなると、クライマーたちはしのぎを削ってどんどん難しい壁に挑戦するようになる。こういうスポーツは過激化の一途をたどるしかないのではと危惧する。命を懸けてでも、「誰も登ったことがない山に挑戦したい」という気持ちが湧いてくるものなのだろうか。

 して、この映画はほとんど正気とは思えないようなそそり立った壁を命綱なしでよじ登る人々を追ったドキュメンタリー。こういう映画を見るといつも思うことだが、この断崖絶壁を登る登山家もすごいが、これを撮影するカメラはもっとすごくないか? どうやって写したんだろう? おそらくカメラは上からロープを使ってぶら下げたか、登山家本人のヘッドセットに仕込んであるか、またはその両方だと思うのだが、よくわからない。

 この映画の魅力は、超人的な若者クライマーであるカナダのマーク=アンドレルクレールの母親や恋人が登場することだろう。ADHDと診断されたマークを型にはめることなく自由にさせた母親の卓見に驚く。恋人と一緒に楽しく壁をよじ登るマークがほほえましい。

 ドキュメンタリー「フリーソロ」を見た時も驚愕したが、今回はそれ以上の驚きに満ちた作品だった。栄誉を求めず、SNSに投稿することもなくただひたすら絶壁にへばりついている若者ってすごくない? それだけにラストに至る衝撃には言葉を失った。(Amazonプライムビデオ)

 2021
THE ALPINIST
映画ドキュメンタリー
アメリカ  Color  93分
監督:ピーター・モーティマー、ニック・ローゼン
製作:ベン・ブライアンほか
撮影:ジョナサン・グリフィス、オースティン・シアダク、ブレット・ローウェル
音楽:タートル
出演:マーク=アンドレルクレール、ブレット・ハリントン、アレックス・オノルド、ラインホルト・メスナー、バリー・ブランチャード