登山は得意ではないのに、山の映画は大好きというわたしにとっては、この映画ぐらいの感じでちょうどいいかもしれない。というのも、「エベレスト 3D」に比べれれば遭難場面の描写が淡々としていて、むしろほっとする感じだ。
これまでいくつも見た山岳映画はほとんどが実話だったが、これは夢枕獏の小説を原作とする、「作り話」である。とはいえ、盛り込まれているいくつものエピソードは歴史的事実に基づいている。
数年前に消息を絶った天才クライマー羽生丈二が実はカトマンズで生きている、ということを知った山岳カメラマンの深町(岡田准一)が主人公で、彼が追いかける羽生という孤高の変人を阿部寛が演じている。阿部はどこへ行っても背が高い。鬼気迫る演技で他を圧倒しているので、ものすごく存在感がある。しかし、ストーリーの運びは省略が多すぎて「ほんまかいな」と思われる場面が多々ある。羽生を愛し続ける涼子の存在もいまいち理解しにくいのだが、そういった瑕疵をカバーするだけの山の撮影のすばらしさと阿部寛の脅威の演技(目が怖い、目が)は一見の価値がある。
1924年に亡くなった英国のジョージ・マロリーの遺品であるカメラが見つかった、という衝撃的な事柄が本作の謎解きの発端となる。エベレストの初登頂を目指しながら亡くなったマロリーの遺体は1995年になって見つかったのだ。彼が登頂を果たしたのかどうかはいまだに謎だそうで、映画の中では彼のカメラが見つかったことになっている。しかもそれを羽生が持っているのである。この謎解きでストーリーを引っ張っていくのだが、それがどうにも宙ぶらりんになってしまうのが残念なところ。
原作はかなり大部なものなので、相当に削り込んだのだろう。映画のストーリー運びにはご都合主義や無理が横行していて、そこが気になる人はこの映画に乗れないし、どうせ作り話なんだから、と少々のことには目をつぶれる人にはそれなりに面白くみられる。
この映画に何を期待するかでかなり評価が分かれるだろう。緻密なドラマを期待すると肩透かしをくらうが、山の雄大な映像や阿部寛の”あの場面”を見るだけでも値打ちがある。
音楽が派手すぎてうるさい。
122分、日本、2016
監督: 平山秀幸、製作代表: 角川歴彦、原作: 夢枕獏、脚本: 加藤正人、撮影: 北信康、音楽: 加古隆
出演: 岡田准一、阿部寛、尾野真千子、ピエール瀧、甲本雅裕、風間俊介、佐々木蔵之介