吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ワタシタチハニンゲンダ!

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 髙賛侑監督の作品としては「アイたちの学校」に続く第2作。現在進行形の事実に迫ったドキュメンタリーであり、衝撃の場面も「よく映像が入手できたなあ」と驚くばかり、見ごたえのある作品だ。

 2021年3月、若きスリランカ人女性のウイシュマ・サンダマリさんが名古屋出入国在留管理局で死亡した事件はいくつかのメディアでも報道されたはずだ。彼女が体調悪化したにもかかわらず入管で放置された挙句に苦しみ悶死したことが、この映画を見ればよくわかる。

 映画の冒頭ではこの国の出入国管理制度がどのように始まり、それが在日朝鮮人をはじめとする植民地支配の結果として存在する外国人をいかに排除してきたかという歴史のおさらいから語られる。ここは教科書的な説明が続くので、内容を知っている人には退屈かもしれない。とはいえ、ここは後半の現状の背景を知るにはやはり必要な部分ではある。

 バブル景気にわく1980年代後半から外国人労働者が多数日本にやってきた。労働力が不足するときには安く買いたたくために外国人を受け入れるが、彼らは所詮は経済の安全弁であり、不況になればたちまち「母国へ帰れ」ということになる。人を人として扱っていないことがよくわかるこの国のあり方は、外国人だけではない、内国人も同じように使い捨て同然に扱われているということに気づくべきだろう。

 21世紀の現在では「技能実習生」としてやってくる多くの外国人労働者が使い捨てにされている状況も描かれているのだが、日本人経営者が悪人ばかりでないのは当然だ。もちろん善意の、あるいは反省する日本人だって登場する。しかし問題の本質は、日本の人々が個人的に善人か悪人かということではないだろう。それはシステムの問題だからだ。

 入管で命を落とした人はウイシュマさんだけではない。民間人のヘイトスピーチとは異なる、国家による暴力をこの映画は抉り出している。タイトルが「私たちは人間だ!」と訴えている内実が、この映画を見れば胸に迫ってくる。一人でも多くの人に見てほしい。(配信)

2022
日本  Color
監督:髙賛侑
撮影:髙賛侑、小山帥人、松林展也
編集:黒瀬政男
音楽:Akasha
ナレーション:水野晶子