吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

すばらしき世界

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2021年11月鑑賞。

 元ヤクザの心優しき男がなんとか更生しようと懸命に努力しながらもなかなかうまくいかないという、可笑しくも悲しく切ない物語。

 殺人犯としての刑期を終えて出所した三上正夫(役所広司)は身元引受人となってくれた弁護士夫婦の元へやってきて、更生を誓う。もちろん本気だ。本気で堅気の生活を営もうと本人は思っている。しかししかし。

 いちどキレると手が付けられない暴力性を発揮する三上は、極めて正義感が強く、それゆえに不正義への怒りを抑えられない。いま彼が生きていたらロシア大使館に火炎瓶持って突っ込んでいたのではないかと思えるほどだ。そんな彼をなんとか守ろうとする人々が周囲にいて、そしてそんな彼を利用しようとする人たちもまた存在する。

 この作品で役所広司は実に魅力的な笑顔を見せる。凶暴さを内に秘めつつその暴発をなんとか抑えようと必死に耐える三上という単純かつ複雑な人間を、軽やかに演じた(ように見える)。役所広司から目を離せない、そんな映画となった。

 生きづらい、頑張っても頑張ってもうまくいかない、そんな人間がそれでもやっぱり頑張って生きていこうとする、その姿に感動しつつ、最後はとても切ないこの映画が実話を元にしているということが一層胸に迫る。西川美和監督、いい仕事をしている。(レンタルDVD)

2020
日本  Color  126分
監督:西川美和
製作:川城和実ほか
原案:佐木隆三 『身分帳』
脚本:西川美和
撮影:笠松則通
音楽:林正樹
出演:役所広司 三上正夫
仲野太賀 津乃田龍太郎
六角精児 松本良介
北村有起哉 井口久俊
白竜 下稲葉明雄
キムラ緑子 下稲葉マス子
長澤まさみ 吉澤遥
安田成美 西尾久美子
梶芽衣子 庄司敦子
橋爪功 庄司勉