吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

テロ,ライブ

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 今年の初映画はAmazonプライムビデオで。超絶面白いという話を聞いていたので見た。ほんんまに面白い。よくこんなエンタメ映画を作ったもんだ、金もかけている。すでに日本映画は韓国に発想でも規模でも遥かに負けている。後塵を拝しているのだからもう日本映画は諦めて韓国と一緒に作ったほうがいいんじゃないか。

 舞台は放送局のラジオ・スタジオからほぼ一歩も出ないのに、ものすごい迫力と臨場感がある。主人公は人気テレビキャスターから左遷されて今はラジオ番組のキャスターとなっているユン・ヨンファ(ハ・ジョンウ)。彼の番組に視聴者から電話がかかってくる。「今から麻甫大橋を爆破する。俺の要求を呑め」と。いたずらだと思って無視したら、放送局のすぐそばにある麻甫大橋が本当に爆破された。幸いにけが人がいない模様だったが、犯人の要求を呑むふりをしてこの事件をきっかけにTVに返り咲こうと狙うユン・ヨンファは実行犯との通話を生中継する。

 という冒頭の展開がスピード感あふれていて、さらにこの先、カメラは手持ちでライブ感を出していく。現場のに麻甫大橋に急行した女性記者はユン・ヨンファの元妻で、彼にとっては未練たっぷりで復縁を求めている相手でもある。元妻が現場からの中継中に橋が再び爆破され、10数人の市民と共に橋の真ん中に取り残されることになってしまう。スタジオのユン・ヨンファがつけているイヤフォンにも爆弾を仕掛けたと犯人に脅され、彼は視聴率アップを狙う上司の命令を聞かずに犯人と交渉を始める。

 犯人の要求とは、2年前の麻甫大橋の補修工事で転落死した3人の建築作業員の遺族に大統領からの謝罪を求めるものであった。しかし、テロリストとは交渉しないという大統領の意志は固く、犠牲者は増えていく――。

 鬼気迫るハ・ジョンウの演技が素晴らしい。誰もかれもが俗物で、上昇志向と自己保身しかない連中ばかりの放送局の中で、ユン・ヨンファ自身も汚辱にまみれていることが暴露されていく。犯人は早々に実名を明かしているからすぐにも捕まえられそうなのに警察の動きは鈍い。

 テロリストの要求がひたすら大統領の謝罪であるという点に犯人への同情がそそられ、居丈高な警察庁長官のほうがよほど悪役面をしているように見える。誰よりもひどいのはユン・ヨンファの上司であり、他局の連中もみなこの事件を視聴率稼ぎにしか思っていないメディアの状況が醜く描かれる。

 最後の結末まであっと驚く場面が続き、この作品が弱冠32歳の青年が撮った初監督作品であることが信じられないほどの緊迫感だ。人物の造形がステレオタイプに過ぎるとか、細かいところで辻褄が合わないとか、設定がおかしいとか、ストーリーは穴だらけだが、瑕疵が気にならないほどの演出力でぐいぐいと見せていく。政治批判の香りを振りまきながら終わるのは中途半端だが、エンタメアクションにしては切ない結末が泣ける。(Amazonプライムビデオ)

2013
THE TERROR LIVE
韓国  Color  98分
監督:キム・ビョンウ
脚本:キム・ビョンウ
撮影:ピョン・ボンソン
音楽:イ・ジュノ
出演:ハ・ジョンウ、イ・ギョンヨン、チョン・ヘジン、キム・ホンファ、キム・ソジン、イ・デヴィッド