吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

1987、ある闘いの真実

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 ソウル大生の拷問死という事実を基に描かれた、見ごたえたっぷりの社会派ドラマ。「タクシー運転手」も良かったが、この「1987」のほうが作品の完成度がはるかに高い。ただし、登場人物が多すぎて一回見ただけでは理解できなかった(酔っぱらっていたせいもある(;^ω^))ので、2回鑑賞。実はもう一回見るほうがいいのではと思えるほど、多くの人々がそれぞれに重要な役割を演じてラストへと伏線が回収されていく、その展開がスピーディでかつ重厚だ。
 わたしは1980年の光州事件は鮮明に覚えているのに、この1987年の反政府運動についてはほぼ記憶にない。これはどうしたことだろう? 1988年(いわゆる「パルパル」。はち・はちという意味の韓国語)のソウルオリンピックを前に総力を挙げてその準備に取り組んでいた全斗煥大統領にとって、この反政府運動は致命的であったろうと想像に難くない。
 重いドラマではあるがラストの高揚感といい、途中にはさまるユーモアある脚本といい、見ごたえたっぷり。
 警察の拷問によってソウル大生が殺され、その死に不審を抱いた検察官が警察を追い詰めていく。悪辣な警官が脱北者であることが切ない。北の体制から逃げてきた男は南の独裁者の手先になるのだ。反共法や国家保安法があった時代の韓国は暗黒の弾圧の歴史をたどっていた。そのことを思い出させる映画であり、その時代の最後の瞬間を感動とともに見せてくれる映画でもある(ここまで書いて念のために調べたら、国家保安法は廃止されていなかった!)。
 大勢の登場人物の群像劇なので、それぞれがどんな思惑で動いているのかがわからないと理解に苦しむのだが、権力側も反権力側も必死だし命懸けという点ではものすごい緊迫感を持っている。そんなドラマの中で光っているのは民主化運動の活動家大学生でありその「恋人」とのほのかな愛情、そして不正を許さない主人公のチェ検事(ハ・ジョンウ)のニヒルなかっこよさだ。美味しいところはこのチェ検事がみんな持って行ったね。緊迫感の中にもユーモアを忘れない演出もたいへんうまくて、エンタメ作としてよくできている。
 こんな映画が、いや、こんな民主化運動が日本ではもう見ることはないのか。そこが大変残念だ。次の世代に残すべき映画。 (レンタルBlu-ray
(2017)
1987: WHEN THE DAY COMES
129分
韓国
脚本:キム・ギョンチャン
撮影:キム・ウヒョン
音楽:キム・テソン
出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン、キム・テリ、パク・ヒスン、ソル・ギョングイ・ヒジュン、ヨ・ジング、カン・ドンウォン