吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

かごの中の瞳

https://eiga.k-img.com/images/movie/89467/photo/aecb54a70186d6f6/640.jpg?1535436905

 献身は支配の裏返しか。目の見えない美しい妻を支えてきた夫は、妻の目が見えるようになったことを喜べないようになっていく…。

 舞台をタイにしたのはなぜなのだろう、と思うのだが、アメリカ映画なのに物語をアジアに設定したために、映像がエキゾチックな感覚に満ちている。それも狙いなのだろうか。主役のジーナが失明から少しずつ見えるようになっていく過程を映像で表現しているのがなかなか秀逸で、目が見えるようになってどんどん解放されて変身していくジーナの姿に不穏なものを予感させる演出も優れている。

 ブレイク・ライブリーの演技力を見直した作品だ。美しいけれど地味な女性だったジーナが、手術によって視力を回復し、初めて見た夫の姿に軽い失望を感じる場面のさりげなさもいい。その後、鏡を見て自分の美しさに気づいたのか、髪を染め化粧をし、派手な服を着るようになると、少し年上で地味な夫とはどんどん距離ができるようになっていく。その過程もごく自然なことのように思える。

 妻が自分だけを頼りにして、自分とともにあった時は何も問題がなかったのだ。それなのに、それなのに、妻は自立した女になろうとしている。夫ジェームズの焦りもまた手に取るようにわかる。

 この二人が互いを愛しているという事実そのものに揺らぎがないところが悲劇なのだろう。たとえほかの男に目がくらんでも、たとえ夫との趣味や性格の違いが明らかになっていったとしても、それは決して乗り越えられない差異ではなかったであろうに。

 互いの嘘と秘密に気づきながら、その嘘を呑み込んでいくのが夫婦の愛なのか? ラストシーンは希望なのかどうか…。(Amazonプライムビデオ) 

2016
ALL I SEE IS YOU
アメリカ Color 109分
監督:マーク・フォースター
製作:マーク・フォースターほか
脚本:ショーン・コンウェイマーク・フォースター
撮影:マティアス・クーニクスヴィーザー
音楽:マルク・ストライテンフェルト
出演:ブレイク・ライヴリー ジー
ジェイソン・クラーク ジェームズ
ダニー・ヒューストン ヒューズ医師
ウェス・チャサム ダニエル
アナ・オライリー カーラ