吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

駆込み女と駆け出し男

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 ほとんど期待していなかったのに、意外な出来。コメディぽく宣伝されていたから、軽い話かと思っていたが、なかなかどうして、江戸末期の日本文学史にも触れる蘊蓄ぶりが興味深い作品であった。
 音楽も美しくて、ジェームズ・ホーナーばりのメロディーラインとストリングスであります。

 物語は、1840年ごろの縁切り寺、鎌倉にあった東慶寺を舞台とする。ここに駆け込んだ妻は24か月を過ごせば、夫と離縁することができた。縁切り寺は妻からの離縁ができなかった時代の、唯一の救いの道であったのだ。幕府公認の縁切り寺である東慶寺を守る尼僧、東慶寺に駆け込む女達を一時預かり身元調査する宿の女主人、その甥で戯作者見習いの信次郎、そして駆け込んでくる女たちの群像劇である。主役の信次郎を軽妙に演じるのは大泉洋。彼の滑舌が良すぎて観客はセリフについていくのが大変だが、当時の医学や文学の知識がふんだんにちりばめられた小気味よくスピーディなセリフ回しは心地よい。

 駆け込んでくる女たちの事情もそれぞれにしっかり描かれており、とりわけ鉄練の「じょご」という若い女を演じた戸田恵梨香が好演。この女優さんの持ち味がよくわからないのだが、今回、硬質で無口な女を素朴に演じて印象に残った。

 地味なお寺の話ばかりではなく大掛かりな捕り物もありぃの、アクションシーンも適宜挿入し、長尺を飽きさせない。 

 縁切り寺はなくなったが、今でもDV男から逃げ出す妻は後を絶たない。逃げられればまだしも、逃げられずに起きる悲劇も後を絶たず。隔世の感ありとはとても思えない江戸時代の離縁事情に、今の世相を合わせ見た。(レンタルDVD)

143分、日本、2015 
監督・脚本: 原田眞人、製作総指揮: 大角正、原案: 井上ひさし東慶寺花だより』、撮影: 柴主高秀、音楽: 富貴晴美
出演: 大泉洋戸田恵梨香満島ひかり内山理名陽月華キムラ緑子麿赤兒中村嘉葎雄樹木希林堤真一山崎努