吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

 主人公は、ほとんど視力を失ったカメラマンと、映画の音声ガイドを吹き込む若い女性。彼らは映画に音声ガイドをつける作業を通して知り合う。かつては天才カメラマンとして名前を知られた中森雅哉は、徐々に視力を失いつつあり、弱視となった今もカメラを離さない生活を続けている。音声ガイドの脚本を作って朗読する尾崎美佐子はまだこの仕事を始めて間がないのか、気合が入りすぎて、彼女が作った音声ガイドを評価するミーティングの場では何人もの視覚障碍者からダメ出しをされる。とりわけ中森は辛辣な言葉で彼女を傷つける。

 冒頭のこの場面が印象深い。音声ガイドというのがどのように作られていくのか、その過程を初めて知ったわたしは、この作業が映画の本質のある部分(映像を文字に置換する困難さ)を描いていることに気づかされた。説明しすぎてもいけないし、主観が入ってもいけない。かといって短ければいいというものでもない。ほんとうに難しい作業だ。そこにボランティアで参加していると思われる視覚障碍者の指摘がドキュメンタリーのようにリアルに感じられる。視覚障害のある当事者が何人か演じているのだろう。

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 カメラマンという天職に就きながら、そしてその才能を嘱望されたというのに、視力を失っていく絶望。雅哉は離婚して一人暮らしで、心も荒んでいる。美佐子は雅哉のキツイ言葉に腹を立てるが、雅哉の写真集を見て感動し、彼に惹かれていく。徐々に心を寄せ合うようになる二人の静かなラブストーリーが展開する。物語の展開は先が読めるようなものだけれど、挿入される美佐子の顔アップや彼女の家庭の事情、また雅哉の視界を描写した画面が美しく、心惹かれるものがある。光を多く取り入れ、かつその眩しい光が優しく輪郭をゆるやかにする画面づくりに河瀨直美の真骨頂が現れている。
 世界の成り立ちと言葉の関係について改めて考えさせる、貴重な映画と言える。ピアノで綴られるBGMも清楚で美しい。(レンタルDVD)

102分、日本、2017
監督・脚本:河瀬直美

出演:永瀬正敏水崎綾女、神野三鈴、小市慢太郎、白川和子、藤竜也