原作の岩井俊二作は未見。あれから20年以上経っているのだから、設定はいろいろ変えてあるはず。岩井の作品は実写の、しかもテレビドラマだったから、映像的にはかなりの制限があったことだろう。今回のリメイクではこれぞアニメ!という素晴らしい光と色彩の乱舞を楽しませてくれる。もうこの花火のシーンだけでも生きててよかった、というレベル。
物語は、どこかわからないけれど灯台のある町を舞台に、中学1年生たちの夏休みの一日を描く。その1日は、転校していく美少女と、彼女を慕う男子たちの気恥しい思春期物語。この年齢の男女は圧倒的に女子が成熟しているから、背丈も女子が高いし、色気も女子にはある。男子たちは、「打ち上げ花火は横から見たら平たく見えるのではないか」「どこから見ても丸いに決まってるだろう」というどうでもいい論争に夢中になり、「では実際にどうなのか、確かめてみよう」ということになって、延々と歩いて灯台まで出かける、というたったそれだけのことを、なぜか何度も何度も何度も時間が巻き戻って繰り返していく、というもの。
なぜこんなに若い男の子たちが人生をやり直したがるのだろう。しかしそんなことはどうでもいいのだ。なにしろ、「もしもあの時……」ということが実現するのだから、この町は。町名が「もしも」なんだよね、「茂下町」と書く。好きな女子に告白したくてもできないとか、いざとなったら女子に振り回されちゃうとか、いろいろとこの年代の男子の面倒くささが丁寧に描かれている。あくまで男子目線だから、ヒロインの美少女は謎めいていて色気に包まれていて、彼女が語る彼女の歴史もすべてがどこまでが本当なのかよくわからない。
たった一つ、どんなに時間が巻き戻ろうとも変わらないことは、夏休みが終わったら男子たちと女子は別れ別れになる、という事実。海に向かって走る一両だけの電車に乗る、たった二人きりの「かけおち」男女の、幽霊列車のような幼い道行も美しく、すべてが幻想的で、すべてが光とともに照らし出され、すべてが謎で、すべてが明らかで、すべてが切ない。
現実にはあり得ないほど花のように咲いて散る花火の美しさ、そして宇宙空間をめぐる惑星や銀河系のように美しい花火の軌跡も、すべてが一夜限りの儚くも派手派手しく鮮やかな色彩。これこそ映画館で堪能したいもの。忘れていた感覚を、少しの恥ずかしさと大いなる懐かしさで思い出したおばさんにも納得の一作。