まったく予想を裏切らない、予定調和の物語。どんでん返しもなければ意外な展開もないにもかかわらず、見終わった後にとてもよい気持ちのする作品。見てよかったと思える安心できる作品にはほっとする。わたしももう歳なので、奇をてらったような異色作は疲れるばかりだ。こういう映画を見ると眠気も覚めてとても気持ちがいい。
ただし、展開はすこぶる遅い。特に巻頭から物語が起承転結の「承」に向かうまでが長くて、20分以上。ここを10分ぐらいにしてくれたらスピーディな展開になったのに。しかしそうならないところがラッセ・ハルストレム監督なんだろうなぁ。
インドで料理店を開いていた一家が追われるようにイギリスに渡り、そしてフランスの片田舎へ。偶然にも一家の乗った車が故障して、居合わせた若く美しいフランス女性が案内してくれた場所が彼女の職場であるフランス料理店だった。そこはド田舎にもかかわらずミシュラン一つ星を与えられた格調高い店であった。そのまん前にインド人一家は店を出すことになり、フランス料理店のマダム・マロリーとのいがみ合いが始まる。。。。
インド人一家の息子ハッサンが料理人としてなみなみならぬ腕を持っていたために、フランス料理店のマダム・マロリーに認められてしまうあたりから急に物語が動き始める。最初いがみあって嫌がらせの限りを尽くしていたマダムが、ひとたびハッサンの能力を見込むや、たちまち彼のために尽くし始めるところが小気味よい。プロの世界はひとたびその腕を認めれば、それまでのひどい仕打ちも何もかもチャラになってしまう、というものなのだろうか。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。ともかくこの映画ではマダムがすっかり「改心」してしまうところが面白可笑しい。
食べることは生きること。食べることは文化を育むこと。食べることは人々のコミュニケーションを潤滑にする。食べ物を通じ、料理を作ることを通じて異文化の人々が理解しあう。
美味しい料理は気の置けない大切な友人とわかちあいたいもの。そう、愛があればどんな料理も美味しくなる。美味しい料理は愛があればいっそう舌と心が喜ぶ。作る人か、食べる人か、どちらの目でこの映画を見るかでまた味わいが変わってくるだろう。
常々インド料理が大好きで、週に2回以上カレーを食べているわたしは、この映画でもやっぱりフランス料理より断然インド料理のほうがおいしそうに見えた。
結末がとても爽やか。そう、点数なんてどうでもいいじゃない。ミシュランの星がいくつ、なんてことに汲々とする必要なんかないんだ。なんでも競争、なんでも点数で評価するということをそろそろ改めてもいいと思う。(レンタルDVD)
THE HUNDRED-FOOT JOURNEY
122分、インド/アラブ首長国連邦/アメリカ、2014
監督: ラッセ・ハルストレム、製作: スティーヴン・スピルバーグほか、原作: リチャード・C・モライス、脚本: スティーヴン・ナイト、音楽: A・R・ラフマーン
出演: ヘレン・ミレン、オム・プリ、マニシュ・ダヤル、シャルロット・ルボン