クリスティン・スコット・トーマスの熱演に尽きる、というべきか。妹役のエルザ・ジルベルスタインもとても愛らしくてよかった。
クリスティン・スコット・トーマスは不思議な女優だ。「イングリッシュペイシェント」の時には妖艶な人妻だったが、本作では老けてやつれている。かと思えば、本作の途中で急に美しくなったりする。この変化の妙を味わえる。
作品は期待していたようなものではなかったので、ちょっと肩透かしをくらったような気分だが、逆に言えば、淡々として静かな心の動きに引き込まれていく映画だ。わが子を殺して15年の刑に服していたジュリエットが出所するところから物語は始まる。なぜ彼女は子どもを殺したのか? 姉を迎えてくれたのは歳の離れた妹レア。姉を深く愛するレアは、姉を気遣う余りに事件の真相を尋ねることを躊躇う。ところがこの物語は、過去の殺人事件の真相を探っていくようなサスペンスでもなければ、その心の闇についてえぐる心理サスペンスでもない。そういったおどろおどろしさがみじんもなく、ただ、独りの中年女性が周囲の気遣いや非難めいた視線との距離を取りながら自分を取り戻していく物語だ。
ジュリエットとレアの姉妹には老いて病院に入院したままの母がいる。母はイギリス人で、認知症が進んでいるのか、娘のことがわからない。映画でわかりにくかったのはこの場面で、なぜ母はレアにはフランス語で罵り、ジュリエットには英語で愛情こめて語りかけるのか。ジュリエットたち姉妹の過去の葛藤や両親との軋轢が垣間見えるのだけれど、謎に包まれている。
頑ななジュリエットの心をほぐすのは妹レアの献身であり、レアの養女たちであり、レアの同僚教師であり、要するにレアという妹の存在が核になっているわけだ。レアの優しさが周りの人々をも変えていく。レアとて優しいだけではなく、時に激高したりもするのだが、姉を気遣う余りの感情の波に自分自身が翻弄されもする。レアの感情の起伏や気分がとてもうまく表現されていて、クリスティン・スコット・トーマスとはまた違った熱演を見せてくれる。
大きな山場とてないお話だが、大人たちの心の引きと寄せ、子どもの鋭い視線や明るさなど、一つ一つの心理描写が丁寧に描かれていて、飽きることがない。ただし、刑事のエピソードだけはいまいち唐突な感じが免れなかった。
人と人のつながりが一人の女性の心を解きほぐし、再生へと導く。その過程をじっくりと見せる佳作。(レンタルDVD)
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IL Y A LONGTEMPS QUE JE T'AIME
117分、フランス、208
監督・脚本: フィリップ・クローデル、製作: イヴ・マルミオン、音楽: ジャン=ルイ・オベール
出演: クリスティン・スコット・トーマス、エルザ・ジルベルスタイン、セルジュ・アザナヴィシウス、
ロラン・グレヴィル、フレデリック・ピエロ