うちのY太郎22歳が「今年のナンバー1」というからものすごく期待したけど、それほどでもない。特に前半は展開が遅くてイライラしたので、多少居眠りしてしまった。しかし、後半になるほど加速度的に面白くなる。
国語教師である中年男性が主人公。彼の教え子の作文はどれもつまらないが、ただ一人、素晴しい輝きを見せるものを書いてきた生徒がいた。それが美しき少年クロード。人の心をそそるように「続く」で終わる作文は、少年自身の友人一家の様子を描いたもの。そこには虚実ないまぜの中産階級の生態が描かれていた。あまりにも興味深い覗き見趣味的なその作品にのめりこんでいく教師ジェルマン。彼だけではなく、彼の妻までがその作文を読んで夢中になってしまう。
この映画のキモは、入れ子になった物語の構造なのだが、その構造がはっきりするまでに時間がかかり、多少モタモタする。そこで我慢しきれないわたしは退屈してしまったわけ。しかし、入れ子構造が鮮明になって、どこまでがフィクションなのか事実なのかが曖昧になるあたりからとっても面白くなる。美しい少年は誘うような視線で自分の父親ぐらいの年齢の教師を見る。教師は、優秀な生徒が嬉しくて可愛がるのだが、その気持ちが高じていく。この感じはとてもよくわかる。優秀な生徒はほんとに可愛い。ましてや美しければ、自分の好みの性格や外見をしていれば、なおのこと。そして、教師自身が読みたいと思うように作文はどんどん脱線し妄想が膨らみ、何が事実なのかも判然とせず、しかもいっそうリアリティを持って輝くようになる。
面白くてスリリングなのは、教師と生徒という権力関係がいつしか逆転していくこと。教師は続きを読みたくて我慢ができない。じらすように生徒は「続く」と書いて寄越す。もはや操られているのは教師のほうだ。もう、教師にはなんらの主導権もない。こうなると彼の破滅は目に見えるようになる。
結末が安易だったかもしれない。あるいは、少しぐらいは何かの希望を持たせたのか? いや、いっそう絶望へとシニカルに駆り立てたのか。オゾンの作品はいつも人を困惑に陥れる。
(2012)
DANS LA MAISON
上映時間 105分
製作国 フランス
監督: フランソワ・オゾン
製作: エリック・アルトメイヤー、ニコラス・アルトメイヤー
原作戯曲: フアン・マヨルガ
脚本: フランソワ・オゾン
音楽: フィリップ・ロンビ
出演: ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、エマニュエル・セニエ、エルンスト・ウンハウアー、ドゥニ・メノーシェ