この映画をみて、ああ、ジョン・レノンはこういう気持ちで”Mother”という曲を作ったのか、と少しだけわかった。そう、ほんの少しだけ。少年ジョンの屈折した心はわたしにはわからない。それは永遠に理解しがたいものかもしれないが、でも、限りなく近づき、その気持ちに寄り添いたいと思う。その理由はわたし自身が男の子の”Mother”だからだろう。
ジョン・レノンは好きだが、彼の伝記的事実をほとんど知らないわたしは、ジョンに二人の母がいたことを初めて知った。それは育ての母である伯母と、実母である。実母に捨てられたジョンは厳格な伯母に育てられたが、思春期を迎えたジョンは実母がすぐ近くに住んでいることを知り、会いに行く。再会なった母は若く美しくファンキーで、ジョンと二人、まるで恋人同士のようにデートを繰り返す。音楽好き、とりわけロックンロールが大好きな母はジョンに大きな影響を及ぼす。バンジョーを与えてジョンに弾き方を教えたのも実母だ。
しかし、実母には新しい家庭があった。そして厳格な養母たる伯母と母は実の姉妹であるにもかかわらず、折り合いが悪かった。二人の母の間で揺れるジョンの心。学校ではドロップアウトするような生徒だったが、音楽の才能は抑えようもなく伸びていく。やがてバンドを組み、ライブハウスで歌うようになったジョンだったが……。
母の愛に飢えた17歳の多感な少年ジョンが、やがては「ジョン・レノン」になる。そのことを知っている観客は、彼の少年時代の「何がジョン・レノンを作ったか」を知りたくて興味津々でこの映画を見る。おりしも今年はジョン・レノン生誕70年。生きていればジョンも70歳だったのだ。もうおじいさんである。おじいさんのジョン・レノンに会えなくて寂しいが、この映画で17歳のジョンに会える。青春の瑞々しさと苛立ちと、愛への渇望と、母への思慕と、それらがない交ぜになった個性溢れる17歳のジョンに。
劇中に流れるエルビス・プレスリーの歌や、さまざまなロックンロール、そしてもちろんビートルズの曲もファンキーで、思わず口ずさんでしまいそうになる。一見どこにでもいそうな反抗的な少年が、やがて「あのビートルズ」を結成していく、その過程を見るワクワクする躍動感に溢れた佳作だ。母親というのは息子に大きな影響を与えるものだ、と本作を見てつくづく思う。そういえばうちのY太郎(大学1年)もわたしの影響でか、映画の道を選んだ。これも母のなせる業かも。
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NOWHERE BOY
98分、イギリス/カナダ、2009
監督: サム・テイラー=ウッド、製作: ロバート・バーンスタインほか、原作: ジュリア・ベアード、脚本: マット・グリーンハルシュ、音楽: ウィル・グレゴリー、アリソン・ゴールドフラップ、音楽監修: イアン・ニール
出演: アーロン・ジョンソン、アンヌ=マリー・ダフ、クリスティン・スコット・トーマス、デヴィッド・スレルフォール、デヴィッド・モリッシー、トーマス・ブローディ・サングスター