吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

さよなら。いつかわかること

 妹役の子が超かわいい。ぼってりしているので「クマちゃん」と呼ばれている。確かに(^_^)。音楽もすごくいい。静かでしみじみとしている。あ、なんと、クリント・イーストウッド作曲だった! 
 
 ものすごく小さな世界を思い切り煮詰めて描いていて、戦死した母親の姿すら登場しない(写真でちらっとだけ)、ほんとに安上がりというかあっさりしているというか、淡々とした映画。でも妻や母を亡くした悲しみというのはこのように受け止めるものなのかもしれないな、と思う。
 
 余計な力が入っていないだけに焦点が甘く、反戦映画としてはインパクトが弱いと言える。夫がイラク戦争を否定していない(できない)からだろう。戦死した妻を「英雄だ」と語る夫は、しかし、本当に心からそう思えていない葛藤がある。ブートキャンプで知り合った二人が結婚して子どもを二人授かり、それもとっても可愛い女の子! 妻は出征してイラクへ。夫は近眼を理由に退役させられてやむなくホームセンターで働いている。そんな境遇そのものに夫は不満があったのだろう。そのせいで、妻の死という覚悟はしていたつもりでも実は覚悟なんてできていなかった現実を前にしていちどきに夫の胸にさまざまな思いが去来する。彼は自分だけでは妻の死を咀嚼できない。娘たちにも告げることができない。逃避行は彼にとって必要なものであったけれど、非日常の世界に逃げてもしょせんは日々の生活に戻って来なければならないのだ。

 戻ってきたところが家族の喪失という悲しい現実。死はいつでもどこにでも転がっているけれど、戦死という死を死んだ妻・母への思いを、遺された家族が語り続ける。「ママに会いたい」。
 銃後の世界の悲しみをしみじみと描いた小さな佳作。(レンタルDVD)

GRACE IS GONE
85分、アメリカ、2007
監督・脚本: ジェームズ・C・ストラウス、製作: ジョン・キューザックほか、音楽: クリント・イーストウッド
出演: ジョン・キューザック、シェラン・オキーフ、グレイシー・ベドナルジク、アレッサンドロ・ニヴォラ、マリサ・トメイ、メアリー・ケイ・プレイス