吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ザ・バンク 堕ちた巨像

 国際大金融機関である銀行IBBCの悪辣な犯罪を追う国際刑事警察機構(インターポール)のサリンジャー刑事とニューヨーク検事局の女性検事補エラの活躍を描く社会派アクション映画。

 ティクヴァ監督らしい演出を期待したのだが、いい意味で裏切られた。リアリズム重視の演出はむしろ退屈で、途中で寝てしまったぐらいだから。しかし、クライマックスのニューヨーク・グッゲンハイム美術館内の銃撃戦にはびっくりした。ここは絶対に目が覚めるものすごいアクションシーンだ。ここまで落ち着いた演出を心がけてきたというのに、この場面でティクヴァは作品のトーンを壊すほどのものすごい銃撃戦を見せてくれる。これは絶対にありえんやろ〜と各方面からツッコミがあるに違いない場面だ。ここが、ティクヴァの「お遊び」といえる、彼らしい破調なのかもしれない。


 この映画には銀行の悪を暴く謎解きの面白さはほとんどない。それよりも、この映画のモデルとなった銀行BCCIが実際にあったということのほうに興味がわく。1991年に破綻したBCCIが裏で戦争マネーを紛争当事国に回していことやマネーロンダリングをしていたことなど、劇場用パンフレットの解説が役に立つ。また、舞台をドイツに置いたことにより、旧東ドイツの軍人の存在が意味をもつ。頭取の片腕として控える老師の存在感が光っているのだが、演じたのは「イースタン・プロミス」でロシアンマフィアの親分を演じたアーミン・ミューラー=スタール。この人は渋いです、出番は少ないのにオーラがある。この元東ドイツの軍人の複雑な過去が映画の中でもっと描かれていたら面白かったろうが、それは台詞の端にちらっと登場するだけだ。それなのに印象が強く残るのだからたいした役者といえよう。


 IBBCの頭取役、どこかで見たことがあると気になって仕方なかったのだが、映画を見終わってから思い出した。「ある愛の風景」のヒロインの夫を演じたウルリッヒ(ウルリク)・トムセンではないか。映画を見ていて、「どこかで見た役者だなぁ」と気になり出すとずっと最後まで気になってしかたがないのだが、この映画でも、何人かの見覚えのある役者の名前や出演作品が頭に浮かばず、映画を見ながらもずっとそれが気になって集中力がそがれてしまった(^_^;)。


 国際メガバンクの犯罪、それは武器の購入資金のために動いている金だ、ということが巻頭いきなり呈示されるので、その構造をあばくことじたいに面白みがない。最近、事実は小説よりも奇なりというような事件がいくらでも起きるから、もはや普通の金融犯罪なんて誰も驚かないのだろう。謎解きの面白さよりも、銀行を追い詰めていく過程のスリルとアクションを楽しむほうがいっそ映画的で面白いと思ったのか、ティクヴァはこの作品を徹底した娯楽作に仕上げた。


 もともと暑苦しい顔のクライヴ・オーウェンがいっそう気張るものだからさらに鬱陶しさが倍増していたが、その分、ナオミ・ワッツが控えめな演技と存在で清涼剤の役目を果たす。この二人を共演させたのはなかなかよいアイデアだ。
 #ミュージアム映画

THE INTERNATIONAL
117分、アメリカ/ドイツ/イギリス、2009
監督: トム・ティクヴァ、製作: チャールズ・ローヴェンほか、脚本: エリック・ウォーレン・シンガー、音楽: トム・ティクヴァ、ジョニー・クリメック、ラインホルト・ハイル
出演: クライヴ・オーウェンナオミ・ワッツアーミン・ミューラー=スタール、ブライアン・F・オバーン