吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

アイアンマン2

映画は、物語の初めと終わりで主人公に変化がなくてはならない。艱難辛苦を乗り越えた主人公が成長する、何かを得る、内面が変化する。そのような変化を観客は楽しみ、感動する。その点からいえば、本作は明らかに第1作より劣る。前作では軍需産業の若き社長かつ天才科学者のトニー・スタークが改心して平和の使者になるダイナミズムが楽しめたのだが、第2作では、トニーの変身/変心が見られない。肉体的なバージョンアップは確かにあるのだが、一人の平凡な(でもない)男がアイアンマンになるという過程を堪能する楽しみは既に失われた。しかも、秘書との恋愛も進みそうで進展なし。これでは3部作の真ん中のつなぎ、単なる緩章と言われても仕方がない。



 とはいえ、とは言え。モナコでのF1レースを使ったカーアクションは見応えありの上にも見応えあり。劇場用パンフレットを読むと、このシーンのアイデアを考えアクションを計算するだけで5ヶ月かかったという。げに映画産業というものは金がかかるのである。

 わたしのお気に入りのシーンは、このモナコの場面で、窮地に陥ったトニーに投げられた変身用のスーツケースをあっという間に組み立てて、彼がアイアンマンに変身する場面。こういうの、何度見ても背中がぞくぞくする。思えばその昔、サンダーバードが発進するとき、トレーシー兄弟がシステマティックにそれぞれのサンダーバードに乗り込む場面のかっこよさに毎回毎回毎回ほれぼれしたものだ。あの興奮に通じるよね、これって。少なくともわたしにとっては仮面ライダーの「へん・しんっ!」よりずっと心地よい。



 本作では、何度も予告編に登場したスカーレット・ヨハンソンの色気たっぷりのアクションシーンが堪能できる。しかし彼女にこんなすさまじいアクションが演じられるとは驚いた。ほとんどの場面で人間離れしたアクションを展開してくれるのだが、CGで処理したということが丸わかりなのが興ざめ。秘書のペッパー・ポッツとはトニー・スタークを挟んで三角関係になりそうなのが見せ場。今回、そのペッパーがいきなり社長に抜擢される。これも驚きの配材。男女雇用機会均等法の時代要請に合わせた物語づくりか(笑)。



 本作ではトニーのライバルが2人現れる。一人は軍需産業の若き経営者ジャスティン・ハマー。もう一人はトニー・スタークの父親に逆恨みを抱いて復讐心に燃えるロシアのサイエンティスト、イワン。このマッドサイエンティストミッキー・ロークが演じていて、中年太りの腹をゆさゆさとゆさぶりながらもすごいアクションシーンを演じる。不死身のサイエンティストが軍需産業の手先になって新しいアイアンマン型マシンを作り出すのだけれど、どう見てもミッキー・ロークは物理学者に見えない。ものすごく怪しいから、ほとんどジョークとしか思えない。しかしこのキャラの立ち方は半端じゃありません。ミッキー・ロークだけ見ても値打ちのある一作。



 最後までよくわからなかったのが、サミュエル・L・ジャクソンたち秘密結社の動き。これって何? 前作で登場したっけ? あまり深いところをつっこむと辻褄が合わなくなるのがこの手の映画だから、深く考えないでスルーすることにしよう。エンドクレジットの後にまだ1シーンあります。第3作の予告みたいな場面。ふーん、どうなるんでしょ。

−−−−−−−−−−−−
IRON MAN 2
124分、アメリカ、2010
監督: ジョン・ファヴロー、製作: ケヴィン・フェイグ、脚本: ジャスティン・セロー、音楽: ジョン・デブニー
出演: ロバート・ダウニー・Jr、グウィネス・パルトロードン・チードルスカーレット・ヨハンソンサム・ロックウェルミッキー・ロークサミュエル・L・ジャクソン