吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

スラムドッグ$ミリオネア

 春に見たお奨めラブコメ3作に続いて、去年見たお気に入り映画を続け3本ご紹介。すべてDVDがリリースされているので、未見のかたはどうぞ。

 
 まずは無難なところで、本作を。いかにもアメリカ人が喜びそうな、いかにもアカデミー会員が一票を投じそうな、夢と希望に溢れる感動作。というわけで、アカデミー賞8部門受賞作。音楽がよかったですね。愛を諦めない主人公の純真な姿には素直に感動しました。


 さてはて、クイズ・ミリオネアという番組はイギリスが発祥の地で、世界各地で翻案放送されているらしい。テレビを見ないわたしですら知っているのだから、これは超人気番組なのだろう。物語の舞台はインド。しかしこの映画はインド・ムンバイでロケされているがれっきとしたハリウッド映画だ。いかにもハリウッドという、夢と希望に溢れた物語。世界最貧のスラムから一攫千金を夢見てクイズ番組に勝ち残った少年は、果たして最後の一問に正解して大金をつかむことができるのか?


 映画は、あと一問で最後の最高賞金を獲得できる、というところまで迫った主人公ジャマールが警察で拷問を受けている場面から始まる。正規の教育を受けたこともないスラムドッグが、弁護士や大学教員ですら勝ち残ることができなかった最後の難問にまでたどり着けるはずがないと怪しんだ番組担当者によって不正の疑いをもたれ、警察で取り調べられているのだ。場面はここから、ジャマールが語る彼の過去へと飛ぶ。

 
 わたしの想像を遙かに超えるスラムの貧しさと不潔さの場面では、そのすさまじさにただ圧倒される。しかもそんなスラムの中でも子ども達は笑い走り遊ぶ。その逞しさに感嘆していると、宗教対立によってジャマールとその兄サリームの母が殺される悲惨な場面へと転回する。親を失ったジャマール兄弟は、その日から必死で生きていかねばならない。同じく孤児となった少女ラティカと三人で生きていこうとするのだが、彼らは人さらいに連れて行かれ、やがてそこで様々な試練を受ける……

 
 という、まずは先進国の豊かな人々の度肝を抜く場面を次々と見せつけられ、ただもう開いた口がふさがらない状態。そして映画は幼いジャマールと現在のジャマール、さらにミリオネアに出場するようになった少し前のジャマール、という3つの時制を組み合わせ、ジャマールの初恋の相手ラティカとの波乱の恋を縦軸に、いよいよミリオネアの最後の問題の場面へと盛り上げていく。


 この映画は一攫千金の夢物語ではなく、一途に初恋の相手を追い求め愛し続けるジャマールの純愛物語だ。いずれにしてもおとぎ話には違いないが、スラムで懸命に生きるうちに身についた様々な知恵や勇気、彼の人生のすべてがなぜかミリオネアの問題に出るのだ。こんなことは普通はありえないだろうが、映画だからこそ、ありえないことも許される。


 わたしが何よりも気に入ったのは、ジャマールが金に執着していないこと。彼がミリオネアに出たのはラティカに会いたい一心だったのだ。お金よりも豊かさよりもラティカとの愛を貫くことを命がけで求めるジャマール。その純愛に感動する。愛を諦めないジャマールの純真に心打たれ、元気をもらえる映画だ。


 と同時に、IT産業によって経済成長を続けるインドの格差やスラムの問題など、悲惨な現実もまた忘れることができない。最後はお約束のダンスシーンがあります。インド映画ってどうしても踊らないと気が済まないみたいね。あ、インド映画じゃなかったわ。

SLUMDOG MILLIONAIRE
120分、イギリス/アメリカ、2008
監督: ダニー・ボイル、共同監督: ラヴリーン・タンダン、製作: クリスチャン・コルソン、原作: ヴィカス・スワラップ『ぼくと1ルピーの神様』、脚本: サイモン・ボーフォイ、音楽: A・R・ラーマン
出演: デヴ・パテル、マドゥル・ミッタル、フリーダ・ピントアニル・カプールイルファン・カーン、アーユッシュ・マヘーシュ・ケーデカー