恋はいつでも突然やって来る。その嵐に掴まれたら最後、誰も抗うことはできない。恋の始まりは炎が明るく照らす。けれど、ひとたびその恋が深まり、二人が近づけば、互いの炎が互いの頬を焦がし髪を燃やす。近づけば近づくほど人は傷つけあい、愛の煉獄へと落ちていく。
イタリア人はすぐに恋に落ちる。噂どおり、男は懸命に女を口説く。それはもう懸命に。4組のカップルの愛の悲喜劇が語られるオムニバス、わたしは最後の話にとりわけ大笑いをさせてもらった。こんなに楽しい恋なら、人生捨てたもんじゃないね。中年の恋はためらいも恥じらいもすべてがこれまでの人生の反省と重みの上に立つ。しかしそう言いながら、やっぱり人は愚かなもので、恋の風がひとたび吹けば、その虜になるのだ。
若者から熟年まで、さまざまな世代の恋愛をリレーしていくオムニバス。それぞれに共通の登場人物がいて次の話へとバトンをつないでいく趣向。
第一話は初々しい若者カップル。「ひと目会ったその日から恋の花咲くこともある〜」ていうのは「パンチでデート!」のキャッチコピーだったな、確か。で、この「ひと目会った瞬間に」恋に落ちるという話がすんなり納得できるためにはやっぱり女が美しくなければいけません。ジャスミン・トリンカ! なんという美しさ。イタリアの花ですな、彼女は。「輝ける青春」にも出演していたけれど、あの映画とは比べ物にならない輝きぶりでございます。ジャスミンに恋をするのがラッセル・クロウを若くしたみたいな顔のシルヴィオ・ムッチーノ。この二人の物語がそれぞれのモノローグを重ねて描かれる。ちょっとおしゃれな恋愛ものだけれど、わりとストレートな話なのでそれほど印象に残らない。
で、第2話は倦怠期の夫婦のお話。けっこう身につまされます。とはいえ、これもあまりひねりがないのでちょっと退屈。
第3話は夫に浮気されて頭にきた婦人警官が腹いせに駐車違反をビシバシ取り締まるという笑える話。イタリア人たちも駐車違反では苦い思いをしている人が多いのではないかと想像させるお話でした。これは女性に(警察)権力を握らせると怖いぞという教訓めいた話かも。そういう意味ではヒステリー女の馬鹿騒ぎ話にも思えてあまり上品とは言えない。フェミニズム的には正しくないストーリーです。
わたしは第4話がいちばん面白かった。真面目な小児科医が妻に浮気されて途方に暮れるという可哀想なお話だけれど、これが妙に笑えるから、重い話をカラっと笑い飛ばす地中海的明るさがあってなかなかいい。
「人はわけも知らず突然恋に落ちます。滑稽にも不可解にも危険にすらなります」
「人はどうして恋に落ちるのか、その理由など知らない。ただ愛に打ちのめされるだけだ」
MANUALE D'AMORE
イタリア、2005年、上映時間 118分
監督・脚本: ジョヴァンニ・ヴェロネージ、製作: アウレリオ・デ・ラウレンティース、音楽: パオロ・ブォンヴィーノ
出演: シルヴィオ・ムッチーノ、ジャスミン・トリンカ、マルゲリータ・ブイ、セルジオ・ルビーニ、ルチャーナ・リッティツェット、ディーノ・アッブレーシャ