金さえあればなんでもできると豪語したのはホリエモンだけど、元祖はこっちね。何しろ金にあかせて自分の好きな映画を自分の好きなように撮ってしまうなんて。自分で空軍基地一個分の飛行機隊を所有してしまうなんて。飛行機欲しけりゃ航空会社の株を買い占めましょ、会社買っちゃえ、ブンブン飛ばすぞ。てな具合のおぼっちゃまの名はハワード・ヒューズ。
「アビエイター(飛行士)」は奇行で知られた大富豪ハワード・ヒューズの映画と飛行機への情熱を描いた娯楽大作。
19歳で親の遺産を受け継いだ大富豪ハワードは、大好きな飛行機と映画のために、自分で戦争映画を作ってしまう。制作・監督・撮影・スタントマンまで演じたその映画の名は「地獄の天使」(1930年)。撮影に3年を費やし、当時としては破格の400万ドルをぶちこんだ大作だ。この撮影シーンが素晴らしい。戦隊を組んで飛ぶ飛行機は初秋のトンボの群舞のよう。撮影中3人の飛行士が亡くなるというぐらい危険な撮影だったのだ。その迫力たるや、この映画をじっさいに見てみたいと思わせる。おや、「アビエイター」の封切りに合わせて「地獄の天使」もDVDが発売されるじゃないの! 憎いねぇ。
「地獄の天使」の試写会場に新人女優ジーン・ハーロウをエスコートして現れた若きハワード・ヒューズはそれ以来、次々とハリウッド女優と浮き名を流す。特にその中でも彼が本気で惚れたのがキャサリン・ヘプバーンとエヴァ・ガードナーだという。
ヘプバーンは裕福な左翼インテリ家庭に育った女性で、ハワードとは育ちや思想が違い、そのうえハワードの浮気癖によって二人は別れてしまう。キャサリン・ヘプバーンの知的で烈しい気性がとても魅力的だから、別れてからもずっとハワードが彼女に惹かれていたことがよく理解できる。ヘプバーンの後に付き合ったのがエヴァだが、これまた気性の烈しい奔放な女性で、やはりハワードの思うようにはならなかったようだ。
大金持ちの夢のような話はアメリカ人に受けるんだろうけど、だた単に金持ちっていうだけじゃなく、晩年は幸せじゃなかったハワードの暗い人生を仄めかして終わるラストの哀感とかが後を引くのでこの映画が受けたんじゃなかろうか。ただ、日本ではハワード・ヒューズはそれほど有名じゃないし、こんだけ徹底的に説明を省いた展開にされてしまうと、不満が残る。劇場で買ったパンフレットを読まなければ、ハワードの生涯について映画だけではちっともわからない。
それに、山場をいくつも作る演出法にも疑問あり。冒頭の「地獄の天使」撮影場面の力溢れる演出から、華麗なるハリウッドの内幕へと続く場面でぐぐっと観客を映画に引き込むのだが、最大の山場、飛行機事故のリアルな描写と迫力で心身共に疲れてしまった観客をさらにそれ以後、神経を病んだハワードの暗い生活の描写まで引っ張るのはちと苦しい。わたしはだんだん眠くてたまらなくなってしまって、最後のほうはほとんど寝ていたわ。最後の山場であるはずの聴聞会がどうにも入り込めない。パンナムとTWA(ハワードの航空会社)との熾烈な競争をめぐる疑惑と汚職事件でも、結局は欲の皮の突っ張った者同士が争っているわけで、ハワードに肩入れしようという気持ちがわたしにはないから、冷めた目で見てしまうのだ。結局、ハワード・ヒューズの生き方に共感できるかどうかでこの映画の評価は分かれるだろう。
ハワードの後ろ姿を黒いシルエットで大写し、カメラが引いて周りが明るくなると絢爛たるクラブが映し出される場面といい、居間でのハワードとヘプバーンのからみを映したあとそのままパンして書斎にカメラが入るとそこには二人の抱き合う絵が映る場面といい、映画ファンを喜悦に震わせる憎いカメラに110点献上。神経質で強迫神経症を病んでいたハワードを熱演したレオは実にうまかった。アカデミー賞を逃したのは残念ね。
ケイト・ブランシェットの演じたキャサリン・ヘプバーンはイメージ通りだし彼女の演技力も光っていたが、ケイト・ベッキンセイルのエヴァ・ガードナーというのは役不足だ。エヴァの堂々たる色気がベッキンセイルには欠けている。
それから、ジュード・ロウをゲスト出演のチョイ役で使うなんて、それは許せない。美しきジュード・ロウをなんでもっと見せてくれないのよ、ケチ!
「レッド・オクトーバーを追え」で颯爽たる姿を魅せてくれたアレック・ボールドウィンがすっかり太ってしまっていたのはショック!
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AVIATOR
168分、アメリカ合衆国、2004
監督: マーティン・スコセッシ、製作: サンディ・クライマンほか、製作総指揮: レオナルド・ディカプリオほか、脚本: ジョン・ローガン、音楽: ハワード・ショア
出演: レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ブランシェット、ケイト・ベッキンセイル、ジュード・ロウ
、アレック・ボールドウィン、ジョン・C・ライリー