吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

ターミナル

 空港から一歩も出られなくなり、入国も出国もままならなくなったらどうする? そのまま空港に住み着くハメになったら? そんな映画を作ってしまおう。このアイデアは卓抜だった。
 ビクター・ナボルスキー(トム・ハンクス熱演。訛った英語がうまい!)はニューヨーク観光のために空港に降り立った。ところが彼の祖国クラコウジアではクーデターが起こって、国がなくなってしまった。新しい国家とアメリカ合衆国が国交を結ばない限り、彼のパスポートもビザも無効である。内戦は泥沼化し、ナボルスキーは帰る祖国を失い、目的地ニューヨークに足を踏み入れることもできなくなってしまった。さあ、このピンチに、あなたならどうする?!
 ここにからむ悪役がフランク・ディクソン(スタンリー・トゥッチ)という空港警備担当局長。彼は典型的な上昇志向タイプの官僚として描かれている。あくまでも法律を遵守し、規則を守ることと自分のキャリアに傷をつけないことだけに汲々としている。法の番人を自負しながら、我がためと事なかれ主義のためならば平気でそれを破ろうとする、悪役人だ。ものすごくわかりやすい悪役。
 このディクソンがあの手この手でナボルスキーの邪魔をし敵対していくところがなかなかの見もので、あまりにも典型的な悪人に描かれてしまってちょっと気の毒な気もする。
 金もない、泊まるところもないナボルスキーはどうするのか? 彼は自分で仕事を生み出し、小金をため、それがディクソンの邪魔に遭うと今度は空港内の売店相手に就職活動する。やがて彼は腕を買われてある仕事に就くようになり、友達もできた。
 さてこのへんでとっても疑問がわいてくるのだが、このビクター・ナボルスキーって何者? 彼の職業は? 家族は? 何しにアメリカにやって来たの? 
 彼の目的は最後近くになって明らかにされるが、結局職業は謎のままだった(でもきっと、あれよね)。で、彼の不屈の根性というものが観客を感動させるし、ターミナル内で多くの友人を得るような彼の人徳が観客の心を和ませる。
 ターミナルのバックヤードを支える労働者たちが移民であることがミソなのだ。インドからの移民、メキシコからの移民、そして黒人。ナボルスキーの心からの友となる人々はこういうマイノリティの人々である。そして恋人は美人の客室乗務員。いかにアメリカ社会が移民の下働きによって支えられているか、そして彼らがいかに自由の国アメリカの本音と建前の狭間で無視され生殺与奪の権を為政者に左右されているか、がよくわかる。
 ところで、祖国の内戦という血なまぐさい話に涙しつつも、ナボルスキーはそれについていっさいコメントしないし、さして関心があるようでもない。ニューヨークへ行けるかどうか、故郷へ帰れるかどうかという、まったく個人的なことにしか興味がないのだ。しかも、彼がどうしても貫こうとした信念/執念に燃えた「目的」というのは、まったく個人的な思い入れにすぎない。彼以外の誰にとってもなんの意味もない、極めて私的な「あること」のためにナボルスキーはあくまでも頑張っていたのだ。
 このへんがいかにもスピルバーグらしいヒューマニズムの甘さとノンポリ性に根ざした映画だ。だから、毒にも薬にもならない「ちょっといい話」どまりの物語にすぎない。とはいえ、ユーモアに富み、心温まる話であることは間違いない。ちょっとありえないという設定も展開もクリスマスの御伽噺だからいいかぁ、と許せてしまう楽しさに満ちている。最後はちょっとだれたけど、いい映画です。
 というわけでお子様連れでも安心して見られます。クリスマスにいかがでしょうか。  ちなみに、スピルバーグとハンクスという組なら、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の方がおもしろいです。スピルバーグって父子愛が好きなんだなあ。

THE TERMINAL

制作年 : 2004
上映時間:128分
制作国:アメリカ合衆国
監督: スティーヴン・スピルバーグ
製作: ローリー・マクドナルドほか
原案: アンドリュー・ニコル
    サーシャ・ガヴァシ
脚本: サーシャ・ガヴァシ
    ジェフ・ナサンソン
音楽: ジョン・ウィリアムズ
出演: トム・ハンクス
    キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
    スタンリー・トゥッチ
    チー・マクブライド
    ディエゴ・ルナ
    バリー・シャバカ・ヘンリー
    ゾーイ・サルダナ
    クマール・パラーナ