吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

阿修羅のごとく

  正月、4姉妹が次女の家に集まった。突然三女が
「ねえ、お父さんに女がいるのよ。子どもまで!」と言い出して
「えぇ~? だって70歳超えてるのよ、まさか」
「ほんとなんだってば。興信所使って調べたんだから」
「どうするの?」
「お母さんにはとにかく内緒にしなくちゃ」と大騒ぎ。
 ところが騒ぐ長女と次女だってほんとは不倫の真っ只中にいて、それぞれ複雑な思いで父の老いらくの恋を見ていたのだった。

 時代は昭和54年。懐かしいねぇ、ほんのちょっと前のことなのに、今のわたしにとっては地続きの時代だというのに、どういうわけか画面がたいそう古めかしい。人物も古い。まるで昭和初期の家庭劇を見ているようだ。浮気したのしないのと揉める。姉妹がタイマン張り合う。夫の浮気に気づいても面と向かっては何も言わずにネチネチと嫉妬する。29歳の「ハイミス」(死語)のくせにいやにおぼこい三女が分厚い眼鏡をかけた図書館司書(!)。

 人物像はいかにもいかにもという類型化がほどこされ、おまけに演技はデフォルメされた過剰演出。なのにこれがどういうわけかおもしろいのだ。わたしはこの映画の登場人物のほとんどに感情移入してしまった。これは珍しいことだ。誰の立場に立ってもすんなり同化してしまえるなんて、いったいどういうことだろう。寒かったのは中村獅童の演技だけで、下手くそなふかきょんも熱演していたし、役者がうまいもんだからすっと入っていけてしまう(大竹しのぶ桃井かおりの対決場面は見ものです!)。たぶん、原作がうまいのだろう。人物の心理や造形のツボを押さえてある。

 話はいかにも古臭くてなんの目新しさもないのに全然退屈せず最後まで一気に見てしまった。女優達の熱演の賜物か。阿修羅というタイトルが生きてくるような修羅場なんてまったくないから安心して見られます。いや、実はそれこそが女の阿修羅の姿かも。八千草薫っていくつになってもかわいいねぇ。
 もっとドロドロ物語かと思っていたら、明るく軽いタッチでさらりとやってくれました、森田監督。ある程度以上年齢がいった方にだけお奨めしておきます。

 この映画を観て思わず自分の踵を触ってみた女性は多いんじゃないかな。ちなみにわたしの踵はひび割れてカサカサです(笑)←なんで「笑」か、この映画を見た人にだけわかる(~_~;)。(レンタルDVD)

制作年 : 2003
上映時間:135分
制作国:日本
監督: 森田芳光
製作: 本間英行
原作: 向田邦子
脚本: 筒井ともみ
撮影: 北信康
音楽: 大谷幸 
出演: 大竹しのぶ
    黒木瞳
    深津絵里
    深田恭子
    小林薫
    中村獅童
    RIKIYA
    桃井かおり
    坂東三津五郎
    木村佳乃
    益岡徹
    長澤まさみ
    紺野美沙子
    八千草薫
    仲代達矢