1993年ソマリア、飢餓で30万人が死亡。部族間の戦争が泥沼化してついに国連平和維持軍が派遣される。だが事態は進展せず、米軍は特殊部隊を投入して、敵のアイディード将軍を捕獲する作戦に出た。1時間で終わるはずの任務だった。
というようなテロップが流れて、多少の説明らしきことを最初にさっさと済ませると、後は映画はひたすら戦闘シーンを映し出すのみ。説明なんてない。ドラマもない。ストーリーもない。二時間以上、ずっと戦闘場面にカメラを持ち込んでただ回しただけ、という感の画像が延々と繰り広げられる。
カメラは1993年10月3日に起こった戦闘をただひたすら追う。この一日だけの出来事が、ソマリアに派遣された米軍の凄惨な戦闘のすべてなのだ。
アイディード将軍を捕獲するために市街地に降り立とうとしたヘリ、ブラックホーク号がソマリア民兵に撃墜される。「Black Hawk down, Black Hawk, down!」という乗組員の叫びがこの映画のタイトルだ。ここからが悪夢の始まりで、撃墜されたブラックホークの生存者を救出するために2機目のヘリが派遣されるが、それも撃ち落とされる。またしても生存者と遺体を基地に取り戻すための戦車部隊が投入される。だが、ソマリア民兵はウンカの如く現れて、倒しても倒しても不気味なほどの数で押し寄せてくる。もう米軍兵士達はなんのために闘っているのかわからなくなり、状況も見えず、ひたすら弾を撃ち尽くすのみ。
ものすごい量の弾丸が放たれるが、ほとんど当たらない。弾の無駄遣いだ。でも当たれば人命の無駄遣いだ。まったく戦争は、どっちが勝っても最大の愚挙であることは間違いない。
いったい制作費にいくら使ったんだろう。本作には、金にものをいわせた迫力は存分にある。抑えた色彩や、短いカットのスリルと迫力に満ちたカメラワーク、高低のメリハリが利いた鳥瞰図。さすがはリドリー・スコットと思わせる映像も悪くない。
だが、制作費がなくても、「Uボート」のような優れた戦争映画だって作れるのだ。「プライベート・ライアン」のような恐ろしくリアルな映画をもう見てしまった観客には、この作品は二番煎じにしか映らない。しかも、「プライベート・ライアン」にはドラマがあったし、スピルバーグらしい通俗なヒューマニズムが溢れていて、観客を飽きさせなかった。
本作は、感傷的な部分がほとんど退けられていて、戦争に対する冷徹な目が貫かれてる。リドリー・スコットの視点はクールだ。だが、このストーリーの欠如には少々疑問も残る。そもそもなんで戦争やってんのか、何の説明もないというのはいかがなものだろう。そこを解説するとかえって政治的な対立点に話が飛んで、戦場の悲惨さが描けないとでも思ったのだろうか。
ストーリーがないと書いたが、こうも延々と戦闘場面を見せられると、しまいには厭戦気分にたっぷり浸れるようになる。ある意味では、セリフや説明なしに戦争の愚かさを見せつけたスコット監督の手腕の賜とも言える。
丸一日の戦闘が終わって、米軍の死者は19人。あれほど凄惨な場面をたくさん見せられたのに、死者はたったの(!)19人。ソマリア人の死者は1000人。ウンカやアリのように湧いて出て、あっという間に殺されて、1000人。命の重さがかくも異なるとは! 観客は、1000人の命に勝る19人の命の重さを実感させられたのだ。アメリカ側の事情しかいっさい描かれていない。その切り捨てぶりは潔いとも言える。
飢餓で何十万人が死ぬのに、なぜ高性能の武器を持っているのか? 愚かな内戦にも怒りがわく。映画を見たら、次はアフリカの飢餓と内戦がなぜ起こったのか、それを知る努力をすべきだろう。
劇場の大スクリーンと大音響で観ていたら高評価となるだろうが、家庭のテレビではなあ。映画館で観た予告編はものすごい迫力だった。(レンタルDVD)
Black Hawk down
製作年:2001
上映時間: 145分
製作国: アメリカ合衆国
監督: リドリー・スコット
製作: ジェリー・ブラッカイマー
リドリー・スコット
製作総指揮: ブランコ・ラスティグほか
原作: マーク・ボウデン
脚本: ケン・ノーラン
スティーヴン・ザイリアン
撮影: スラヴォミール・イジャック
音楽: リサ・ジェラード
ハンス・ジマー
出演: ジョシュ・ハートネット
ユアン・マクレガー
トム・サイズモア
サム・シェパード
エリック・バナ
ジェイソン・アイザックス
ジョニー・ストロング
ウィリアム・フィクトナー
ロン・エルダード
ジェレミー・ピヴェン