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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

涙するまで、生きる

映画

 今年のマイベスト10に入る映画。劇場で見たのはだいぶ前だけれど、今こそこの映画を大勢の人に見てほしい。

 フランスはアルジェリア戦争から何も学ばなかったのか? シリアへの空爆を再開するような愚かなことはやめてほしい。平和への願いを込めてこの映画を紹介します。

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 本作はアルベール・カミュの短編集『転落・追放と王国』のなかの一編「客」を原作とする。ヴィゴ・モーテンセンはアメリカ人なのに各国語が堪能で、本作ではフランス語、スペイン語、アラビア語を駆使する。

 舞台はカミュの作品らしく、やはりアルジェリアの荒涼とした山間地。山肌にへばりつくようにポツンと建つ小さな校舎で子どもたちに教えているのはダリュという白人。授業が終われば校舎の一角がそのまま一人暮らしのダリュの自宅となる。なだらかな起伏の広がる大地と山並には底なしの渇きが漂う。水はどうやって確保するのだろうか。砂漠のサラサラとした砂ともまた異なり、大小の石ころが転がる風景は孤独な人間だけがそこを好む、人を拒絶する厳しさを見せつける。

 そんなダリュの元に縄につながれたアラブ人が連れてこられた。殺人事件の犯人であるその男を町まで連行するように憲兵に強要されたダリュは、仕方なくアラブ人モハメドを預かるが、わざと逃げられるように仕向ける。しかしモハメドは逃げるどころか、町の裁判所へ行くことを望む。裁判にかけられれば間違いなく死刑になることを知っているにもかかわらず、である。一夜明けたところにモハメドの命を狙うアラブ人たちが襲ってくる。彼らを撃退したダリュは追っ手から逃れるためにモハメドを連れて町へ向かうことにする。馬に乗ってまる二日はかかる行程が始まる。果たして彼らは無事に町までたどり着くのだろうか。モハメドは町で死刑になるのだろうか。。。。

 孤独で寡黙な男の役が似合う、ヴィゴ。彼しかいない、という絶妙のキャスティングである。なぜこんな人里離れたところで教師をしているのか。彼の過去が少しずつ明らかになっていくと、彼の異邦人ぶりが際立ってくる。この主人公もやはりアルベール・カミュのような故郷から疎外された男だったのだ。
 荒涼とした大地の風景に心が寒々とするけれど、ここで何度も銃撃戦が始まるので、アクションシーンがもれなくついてくるスリリングな展開にぐっとつかまれていく。ダリュが元軍人であるため、意外なところで意外な人物との再会があったり、異様に地味な話にもかかわらず波乱万丈である。ダヴィッド・オロファン監督自身が西部劇を意識したというだけあって、騎馬戦に力がこもっている。

 アラブ人モハメド役のレダ・カテブは最近いろんな映画でよく見かけるが、どの作品に出ても情けない男の役ばかりを演じている。実際そういう役が似合うし、またうまいのである。

 植民地と宗主国の対立をなんとか流血なく和解へと導きたいと願っていたカミュの原作らしく、ダリュという男を通じて「教育で世の中を変えようとしている」と語らせている。反乱軍の兵士は「おれはあんたたちを追い出したい」と武装闘争への熱意を語る。ここに彼らの交わらない思いが絶望的に描かれている。そして、ダリュが原作者カミュの面影を映した人物である以上に、さらに異邦人性を際立たせる設定になっていることがラスト近くになって明らかになる。

 フランス人からはアラブ人と差別され、アラブ人からはフランス人と罵られたダリュという孤独な男の生きざまが、モハメドという罪人との出会いによってくっきりと輪郭を縁取られていく。そこには希望はあるのか。ダリュはどこへ行くのか。そしてモハメドは死刑になるのか。

 見終わってからさまざまな思いが去来し、彼らの孤独といまの世界に続く対立の構図に思いを馳せる。荒々しい大地が人を絶望へと追いやるだけではないことも描かれている、かすかな希望を残す映画。

LOIN DES HOMMES
101分、フランス、2014 
監督: ダヴィド・オロファン、製作: マルク・デュ・ポンタヴィス、マシュー・グレッドヒル、原作: アルベール・カミュ、脚本: ダヴィド・オロファン、撮影: ギョーム・デフォンテーヌ、音楽: ニック・ケイヴウォーレン・エリス
出演: ヴィゴ・モーテンセン、レダ・カテブ、ジャメル・バレク、ヴァンサン・マルタン