吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

逢びき

 古典的不倫映画。デビッド・リーン監督というのは実はこういうよろめきドラマの王道をいくような作品に才能を発揮する人だったのかもしれない。

  裕福で平凡な家庭の主婦が偶然出逢った医師と恋に落ち、二人は互いを求めながらも罪の意識にさいなまれ、やがて短い逢瀬は終わる。という、なんということもないW不倫ものなんだけど、この二人の自己抑制がすさまじくて(特に女の)、出会い系サイトで出逢ってあっという間に恋に落ちる現代日本のネット系W不倫カップルとえらい違いだ。

  二人の出会いと別れの場が駅というのも優れた設定で、また二人にからむようでいて全然無関係な駅の人々の会話も楽しい。彼らの会話をさりげなく聞いているヒロインに微妙な感情の動きを与えるというあたりの機微も演出がうまい、と感心した。

  ヒロインが惹かれる男性が医者というのもありがちで、また、いい年をした中年女性がまるで中学生か高校生のような夢を車窓に映し出すシーンなども微笑ましい。リーン監督は、ごく普通の女性が持っている夢や密かな願望というものをよく知っている。この映画が大ヒットしたというのも頷ける。

  結局はやさしい夫の元に戻るという結末も観客を安心させるのだろう、この結末が当時の人々の心情に寄り添うものだったに違いない。これが1976年になると「さよならの微笑」(フランス)という新しいタイプの不倫映画が登場し、ラスト、さっそうたるヒロインの微笑みが爽快感を女性に与え、「逢いびき」の切なさとはまったく趣が異なるようになる。そして「情事」(1998年、韓国)になると、切なさの背景にある現代結婚制度への不満がさりげなく切り取られ、これまた「逢びき」とまったく異なるエロティックで美しい映画が登場する(日本では「失楽園」などという作品もあるが、未見)。   
  本作で描かれたロマンスもロマンティック・ラブ・イデオロギーの1バージョンに過ぎず、しかも時代の古さを感じさせる「古典的」ロマンス映画だ。あまりにも上品でお行儀がよすぎるのと、婚姻制度への批判が皆無なのが不満。でも女性の心理を実にうまくとらえている点は刮目に値する。音楽がわたしの大好きなラフマニノフのピアノ協奏曲2番というのもよかった。

Brief Encounter 
製作国 :イギリス
製作年 :1945
上映時間: 86分
 監督: デヴィッド・リーン
製作: ノエル・カワード ほか
脚本: ノエル・カワード
    アンソニー・ハヴロック=アラン 
     デヴィッド・リーン
     ロナルド・ニーム
撮影: ロバート・クラスカー
出演: セリア・ジョンソン
    トレヴァー・ハワード
    スタンリー・ホロウェイ
    ジョイス・ケアリー
    アルフィー・バス