吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

運命じゃない人


 つい最近観ましたねぇ、こんな構成の映画。そう、「バンテージ・ポイント」。同じお話を登場人物の視点ごとに描く。時間を何度もまき直して見れば…。という構成自体はそう珍しい話でもないので、いかにシチュエーションを面白く設定するか、人物を書き込むか、印象的なセリフで唸らせるか、演技力で魅せるか…。てなことを言い出したら、要するに勝負どころはほかの映画と同じね。別に取り立てて変わった映画ではない。でも面白かった。その面白さの源泉は、「意外性」だと思う。

 物語はまず信じられないぐらい人のいい真面目なサラリーマンを主人公にして、彼が偶然通りすがりの女を親切で自分のマンションに泊めてやろうとする、というお話。このサラリーマン宮田武はつい半年ほど前、婚約者にふられて傷心からまだ立ち直っていないのだった。そんな彼を見かねた親友で探偵業を営む神田勇介が宮田のためにナンパしてやった女が桑田真紀だ。真紀もまた婚約者に裏切られて荷物一つでマンションを飛び出してきたばかり。まずこのお話は「ちょっといいお話」程度の退屈な小話。などと思っていたら次に同じ話が神田勇介の目線になると一変する。ここからはぐぐっと面白くなるのだ。


 登場人物全員の目線で物語の全貌を知ったのは観客だけ。で、最後まで真相を何一つ知らなかったのは人のいい宮田だけ。つまり、もっとも善人たる宮田武は何も見えていない。自分が騙されたことにも気づいていない。その一方で物語のすべてを知った観客、そう、わたし。そう、この映画を観た人。これが一番の悪人かもね。なにしろこの物語を面白がってしまったのだから。善人が騙され続ける話を面白がるというのは相当悪いやつだ。

 というわけで、この映画は、観客の悪人度を試す作品です。……嘘です。(レンタルDVD)

------------------
運命じゃない人
日本、2004年、上映時間 98分
監督・脚本: 内田けんじ、音楽: 石橋光晴
出演: 中村靖日霧島れいか山中聡山下規介板谷由夏