チェ・ゲバラの最期の闘いに同行して死んだ日系人の遺族の手記を元に映画化された。ゲバラ没後50年の企画である。
映画は1959年の日本から始まる。来日していたゲバラはいつでもどこでもあの軍服姿で、予定になかった広島行きを組み、原爆慰霊碑の前に立つ。この場面でわたしはゲバラの娘が2008年に、息子が2017年に広島を訪れたという報道を思い出した。
ボリビアに住む日系2世のフレディ前村は、貧しい人を救うために医師になると決意してキューバに留学する。医学の勉強はとても難しく、フレディは猛勉強に明け暮れるが、大変優秀な成績を収める彼は同級生からも一目置かれている。
ボリビア訛りのスペイン語を習得したオダギリジョーは偉い。その努力は認めるが、いかんせん映画が地味すぎる。1960年代初頭の若者はあんなに品行方正だったのだろうか。好きな女性に全然積極的にアタックしないなんて、いくら血統が日本人でも大人しすぎるだろう。
大義と正義のために学業を途中放棄してゲバラの軍に志願したフレディは、祖国ボリビア解放のために山岳ゲリラ戦を戦う。ともに外国出身の医学者という共通項を持つゲバラに、「エルネスト」という栄誉あるコードネームを与えられたフレディは使命感に燃える。しかし、山岳での戦いは革命軍が圧倒的に不利だった。
キューバ革命、キューバ危機、ボリビアの軍事クーデータといった当時の背景を知っている人間がみれば興味深い映画ではあるが、ほとんどの日本人がそういったことを知らないのだから、この映画のヒットは難しい。実に残念だ。オダギリジョーの演じた礼儀正しい日系人はネトウヨが喜びそうな「清く正しく賢くお国のために散る日本人」像にぴったりなんだけどね。ある意味、そういう面が危うくも映る。
やはりこの映画のゲバラは英雄像にふさわしい。清貧で熱意に溢れ、意気盛んで謙虚、そして正義感の塊のような人。ゲバラといいフレディといい、彼らのような人はもう今では稀有な存在ではないか。社会主義が大いなる失敗だったとわかった今、キューバ革命の意義もかつてのような手放しの評価は与えられないだろう。キューバの国策映画みたいな本作だが、実は日本からの持ちかけ企画だそうで、革命に殉じた若者の魂を慰撫する格調高い作品に仕上がっている。最後がちょっとあっけないのが残念ではある。(Amazonプライムビデオ)