吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

エクス・マキナ

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 アカデミー賞視覚効果賞を受賞しただけあって、ロボットのデザインが秀逸で、人口皮膚がベロリとはがれるシーンのグロテスクさもたまらない。しかしそれ以外の部分にあまり見どころを感じないのが短所。

 もともとのストーリーの発想は極めて興味深い。AI(人工知能)は果たして人間と同じかそれ以上の知恵を発揮することができるのか。この大いなるテーマの確認のために選ばれたのが、主人公のケイレブだ。彼はめったにお目にかかることができない自社のカリスマ社長の別荘に招かれる。そこはロボット開発の最先端の研究所だったことが後から判明する。ここで作られる女性型ロボットはいずれも若い美女ばかり。彼女たちは見た目だけではなく、中身も人間同様の知能を有しているのだろうか? いや、見た目はどう見てもロボットにしか見えない気色のわるいスケルトンの機械は、それでもその美しいフォルムをさらして別荘の中を歩き回る。 

 当初、社内懸賞に応募して当選したと喜んでいたケイレブだったが、いざ招かれた社長の別荘で怪しげな体験を重ねるうちに、大きなたくらみに気づく。彼は新開発のロボットの人工知能AIが人間を超えていることを実証するための実験材料にされていたのだが、そのたくらみをさらに上回るたくらみがそこには横たわっていた……

 大企業の社長の別荘というのがビジュアル的には大変素晴らしく、そのまま美術館になりそうな整序された空間を演出している。女ロボットばかりが登場する不思議な建築物はほとんどこの社長の妄想か。塵一つ落ちていないのではないかと思わせるほどの無機質な美術デザインが洗練されている。しかもその無機質さの中には、自然の山川をそのまま利用する日本的な庭園が組み込まれていて、このデザインにも何か賞を上げてほしいと思わせる。

 美術と撮影は大変よいので、映画館で見てほしい作品だが、残念ながらストーリーの部分に説得力があるのかが疑問だ。テーマは面白いし、結末もひねりがあってよいのだが、辻褄が合っていないのではないか。これまでみた数々の名作・傑作SFの香りをあちらこちらにまき散らしている作品で、アリシア・ヴィカンダーの美しさが機械仕掛けの身体と相まって一層高められている不思議な映像に酔いしれつつも、いまいち乗り切れない不満が残る。たぶん、演出が淡々としすぎているのと、登場するロボットが若い女ばかりという展開にも文字通り「女をおもちゃにする」発想が見えて不愉快なのが原因だろう。

 もう一度見直さないとよくわからない、というのが正直なところ。しかし、このビジュルアルは捨てがたく素晴らしいので、ぜひ多くの人に見てほしい。

EX MACHINA
108分、イギリス、2015 
監督・脚本: アレックス・ガーランド、製作: アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ、撮影: ロブ・ハーディ、音楽: ベン・ソーリズブリー、ジェフ・バーロウ
出演: ドーナル・グリーソン、アリシア・ヴィカンダー、オスカー・アイザック、ソノヤ・ミズノ