人を食ったようなお話。どこに転がるかわからない展開。肝心なところはほのめかしだけで一切描かない憎たらしさ。そんな映画を面白いと思うかどうか、かなり好みの分かれる映画。わたしは前半爆睡、後半になってやっと目が覚めたけれど、そのあらぬ展開ぶりには驚きつつも「ええっ? なんでそうなるの」と納得いかないまま終わってしまった。
そんな物語なので、ストーリーらしきものがあるのかないのか。一応あるけど、「なんでそういう展開になるのか」と頭で考えていたらまったくついていけないから、流れに身を任せて「次はどっちの角を曲がるの」と楽しみに構えているのがよきかな。
監督の日本好きが高じてアイドルソングが鳴り響くあたりはもう、日本人観客には笑うしかないだろうけど、こういう場面はヨーロッパでは受けるのか? ストーリーの骨格は、失業中の父親が白血病の娘の願いをかなえるために金策に走り行きずりに出会った女を脅して金を巻き上げた結果悲劇が起きる、というもの。
元教師の父親が失業した原因は大規模リストラに拠る。スペインではそんなに簡単に教師がリストラに遭うのか? 驚きであった。そして、その父親の12歳の娘は「魔法少女ユキコ」にあこがれ、そのコスチュームが欲しくてたまらない。そんな日本のアニメがあったのかと思いきや、これは監督の創作で、元ネタは「魔法少女まどか☆マギカ」と「美少女戦士セーラームーン」だそうな。だから、ノアールな作品なのにどこか漫画的な可笑しさが漂う不思議な映画になった。
この映画の見どころは、なんといっても本作が図書館映画である、というところ。脅した金の受け渡し場所として指定されたのは、公共図書館の法律書の書架にある「憲法の本」、というのがミソ。「誰も読まないから」という理由で分厚い本に札束を隠すという方法が取られるとは、わたしは思わず苦笑しましたよ。図書館のことをよくご存じで。こんな活用方法があったとは瞠目である。
マジカル・ガールとはだれのことだったのか。謎の美しき人妻バルバラその人か、魔法少女ユキコになりたかった美少女アリシアか。この映画には少女を含めた女への恐怖が底流している。その美しさに触れたら地獄へ行く。
最後の最後まで人を食ったまま消化できずにお話は突然終わる。食われた観客は面白がるのか怒るのか、反応は真っ二つに分かれそう。
MAGICAL GIRL
127分、スペイン、2014
監督・脚本: カルロス・ベルムト
製作: ペドロ・エルナンデス・サントス、劇中歌: 長山洋子 『春はSA-RA SA-RA』
出演: バルバラ・レニー、ルイス・ベルメホ ルイス、ホセ・サクリスタン、ルシア・ポリャン