吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

きな子 見習い警察犬の物語

 きなことあんこ、迷コンビが織り成す犬と人間の成長物語。


 舞台は香川県。登場するのは丸亀城とか三豊とか金比羅さんとか琴参バスとか。讃岐うどんもきっちり登場。映画を見終わった後、猛烈にうどんが食べたくなったのでフードコートを覗きにいったら、なんと讃岐うどん屋があった。早速釜揚げうどんを食す。あんまりコシがなかったのは残念。

 テレビを見ないわたしは、この映画が実話に基づくことも、きな子という犬が既にお茶の間の人気者であることも知らなかった。だからお話がえらくきれいなのも嘘臭いまでに感動的なのも、実在の人物たちがモデルであるからか、と納得。いや実際とても感動的なので、わたしの隣席のおばさんはぐずぐずと鼻をすすっていたし、わたしも泣いたし、駄目犬の奮闘振りには泣かされます。



 杏子(きょうこ)は高校卒業と同時に警察犬の訓練士になるため、香川県警嘱託の警察犬訓練所に見習いとして住み込みで入所する。朝は5時起床、就寝は24時という厳しい生活だ。きな粉色をした脆弱な子犬に「きな子」と名づけ、「警察犬にはなれない」と所長に言われたにもかかわらず、訓練を始めることに。杏子は「あんこ」というニックネームで呼ばれ、きな子とあんこの二人三脚の訓練の日々が始まった。果たしてきな子は警察犬になれるのだろうか?

 子ども向けのお話と思っていたのですぐに終わるかと思いきや、山場をちゃんと用意してあるので、けっこうそこまでが長い。渉という名の好青年が見習い訓練士の先輩にいるので恋愛ものになるのかと予想したらそれはまったく違うサイド・ストーリーで、渉を製麺所の跡取り息子という設定にしたのは讃岐うどんを場面に入れたかったからなのだろう。



 警察犬の訓練士見習いの仕事が住み込みの3K職場であることがわかったのと、駄目犬きな子は警察犬の試験に落ち続けても、かえってその駄目さが笑いをさそってタレントぶりを発揮するなど、人間世界にとっても教訓となる点がなかなかに興味深い。「いくら努力してもどんなに頑張ってもできんものはできん。いくら努力してもできん者がいるということが所長にはわからんのや」という杏子の台詞はこの映画の中で一番印象に残った。努力してもできない、という現実の壁にぶつかったとき、人はどうするべきだろう? 夢を諦めるのか、違う人生を選ぶのか、それとも「まだまだ」といつまでもチャレンジを続けるのか。いずれにしても警察犬になりたいかどうかなんて、きな子の意志とは関係のないことであり、犬の「人権」を考えるなら、そんな無理な訓練をさせるより、のんびり生活させてやればよいものを、と思う。

 この映画がどうしても物語/虚構のように思えてしまうのは、キャラクターの立て方が極端なのと、訓練の厳しさが伝わってこないのと、杏子を演じた夏帆が一本調子の演技を見せるからだろう(でもとても可愛い)。お決まりのストーリー仕立てや、これといって工夫のない演出はほとんどテレビドラマのようにも思える。



 とはいえ、讃岐富士の美しい姿が何度も映り、香川県の緑深い風景や美しい瀬戸内の海など、癒される場面がたくさんあって、ほっこりした。それに、半人前の見習い訓練士杏子がきな子とともに挫折を乗り越え奮闘する様子は素直に感動する。しんどいことを避けて努力をしたがらない「いまどきの若者」の中にも、こういう人がいるのだ、と見直した。訓練所長の娘が小生意気でそのくせとても可愛くて、笑える場面は全部この子役がさらって行った。このキャラもちょっと狙いすぎかも。

                                                          • -

113分、日本、2010
監督: 小林義則、製作総指揮: 秋元一孝、脚本: 浜田秀哉、俵喜都、音楽: 服部隆之
出演: 夏帆、寺脇康文、戸田菜穂、山本裕典、広田亮平、大野百花、遠藤憲一、浅田美代子、平田満