吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

フラガール

  1960年、合理化が進む常磐炭鉱で、起死回生をかけて建設された「ハワイアンセンター」。北国を常夏の楽園にとの触れ込みでオープンしたこの娯楽施設でフラダンサーのチームが結成された。炭鉱労働者の娘たちの汗と涙の奮闘を描く、実話をもとにした物語。
 炭鉱会社は、斜陽産業の石炭を見限ってハワイアン・センターを建設し、センターで新たな雇用をとの案を労組に提示したが、炭鉱で働く2000人のうち、再雇用されるのは500人だけという。残る1500人の雇用は確保されていなかった。労使交渉の場は紛糾し、ハワイアンセンターに移る労働者は裏切り者呼ばわりされることになる。

 そんな中で、閉塞状況から新たな世界を求める娘たちがハワイアンセンターの目玉となるフラダンスショーのダンサーを求める貼紙を見て、応募してきた。しかしそれはたった4人。しかもド素人で、踊りといえば盆踊りしか知らない田舎の娘だったのだ。会社は東京からSKD(松竹歌劇団)のダンサーを教師にと引っ張ってきたが、やって来た平山まどか(松雪泰子)というダンサーは昼間から泥酔して足元もおぼつかないような有様。おまけに汚い社宅の一室をあてがわれ、教え子は足を上げることもできない田舎娘ときては、すっかりやる気をなくしてしまう……

 炭鉱、不況、娯楽、芸の道、とくればイギリス映画の真骨頂。「ブラス」「リトル・ダンサー」「フルモンティ」といった作品をすぐさま思い浮かべる。加えてこの作品には、ダメ生徒たちが奮闘努力の末、立派な芸を仕込まれるという「スウィングガールズ」や「ウォーターボーイズ」の風味あり。
 プロットは単純だ。なにしろ実話が元になっているから、結末は動かしようがないし、感動を生む物語の基本となる、「問題提示→障害物の提示→障害物の除去→登場人物の成長→さらなる困難→大団円」というパターンはそのまま踏襲している。しかし、この単純な話をそう単純には見せていないところがこの映画のよさだろう。
 実際に役者たちは最初のうちはあまり踊れなかっただろうと推測できる。だから、映画の中で彼女たちがどんどん上手くなり、固かった表情が徐々に柔らかくなり、最後は弾けるような笑顔を見せて踊れるようになる姿は演技ばかりとは思えず感動的なのだ。
 映画は二時間ちょうど。これが長くもなく短くもなく、実に小気味よいテンポで進む。むしろ短いぐらいだ。なにしろ、練習風景の描写がかなりショートカットされている印象があり、「あんなに少ない練習で大丈夫か?」という不安は登場人物たちだけでなく、観客も同じ。案の定、本番が始まっても彼女達はちっとも上手くない。むしろ、客の前で見せる「本番」が練習なのだ。ドサ回りの一座よろしくバスに乗りこみ、あちこちの公民館などでプレ・オープンの宣伝興行に回る場面もまた見せ場だ。ここでいろんなドラマがあって、炭鉱特有のいろんな事件が起きて…と、ハワイアンセンターオープン当日の山場へとドラマは周到に盛り上げられていく。
 最後のハワイアンセンターオープン初日、こけら落としのダンスシーンはまさに圧巻。こういう筋書きは「スウィングガールズ」や「ウォーターボーイズ」のクライマックスシーンの見せ方と同じなんだけれど、こちらのダンスのほうが技が上な分だけ感動も大きい。蒼井優はもともとバレエをやっていたのかな、最後のソロダンスはお見事としかいいようがない。
 何よりも、ここには高校生達のお気楽さはない。構造不況に襲われる町で生活をかけて踊る彼女たちには、後に引けない真剣さがある。合理化をめぐる会社と労組との駆け引きや交渉、といった大人の世界の困難もしっかり描かれている。
 この映画では、労働者の雇用を守ろうと団結の力を見せる労組が保守派であり、炭鉱から娯楽産業へとシフトしようとする会社側が革新派として描かれている。今から考えればこれは正しい見方であり、結果として世の流れはそうならざるをえなかったのだが、やはり次々と解雇の辞令を受け取って炭鉱を去る労働者の姿は寂しい。この映画には、消え行く鉱山と労働者たちという時代の流れを映し出す侘しさや、事故と切り離せない厳しい炭鉱労働といった働く者達の姿を描いて、涙をそそる。
 今もいわき市のハワイアンセンターは「スパリゾートハワイアンズ」という名で営業を続けている。ただいまこの映画の公開を記念していろんなイベントやツアーが組まれているね、やっぱり。平山まどかのモデルになった先生は今も健在で、この映画の振り付けも担当した。すごいね、一度、フラガールたちの踊りを見てみたいものです。

制作年 : 2005

上映時間:120分

制作国:日本

監督: 李相日

製作: 李鳳宇ほか

脚本: 李相日、羽原大介

音楽: ジェイク・シマブクロ

 出演: 松雪泰子豊川悦司蒼井優山崎静代池津祥子徳永えり寺島進、  岸部一徳富司純子