吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ロング・トレイル!

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 アパラチア山脈3500キロを踏破するという老人二人組の奮闘物語。典型的なバディものでかつロード・ムービー。でも、青春物語ではなく老人瀕死物語なので、そこはかとなく悲哀が漂いかつ爆笑ポイントが多すぎる、とっても楽しいお話。原作は人気ノンフィクション作家が四十代の時に書いた紀行文だが、映画化に当たっては主人公たちの年齢を75歳以上の後期高齢者に設定したところがミソ。

 ロバート・レッドフォードが演じる主人公ビル・ブライソンは人気ノンフィクション作家だったが、今や半ば引退状態だった。ある日、知人の葬儀に参列した後、自宅に戻って物思いにふけりながら散歩していて、ふと気が付いた。なんと、自宅の近所に遊歩道があって、それはアパラチアン・トレイル3500キロの入り口だったのだ。よーし、出るぞ、3500キロの旅! と意気込んだブライソンだが、妻は許してくれない。一人で行くのは絶対に反対、仲間を募りなさい、と言われて友人何人にも電話を掛けるがことごとく断られる。唯一、どういうわけか40年来音信不通だったスティーヴン・カッツから「俺に連絡しなかったな、こいつめ! 一緒に歩いてやるぜ」という留守番電話が入っていた。

 かくして、老人二人のトレイルの旅が始まる。果たして二人は踏破できるのか。そもそも生きて帰ってこられるのか。

 という、なんだか最近どこかで聞いたようなお話なので、とっても身近に感じてそれだけでも身につまされて、かつ楽しい。ブライソンは作家らしくインテリぶった台詞を吐くのだが、カッツのほうは下半身に脳みそがついてるような男。好みの女性を見たらたちまち色目を使う。やたら下ネタの話ばかりする。この二人、気が合っているのかそうでないのか、どっちなんだ! 

 トレイルの期間中はずっと山を登っているのかと思ったが、途中で町に降りたりヒッチハイクしたり、けっこういろいろと起伏があるのだ。テントを張って野宿することもあればモーテルに泊まることもある。変化のある道中が興味深くて、見ていて飽きない。おまけに二人の老人がへたばりながらヨロヨロ歩く姿も可笑しい。山道を歩く老人を笑っていられるのもいまのうちだけかもねー、わたしだって、、(絶句)。山を歩くということは危険と隣り合わせでもある。いろんな危ない目に遭う二人は、果たして無事に完歩できるのだろうか。

 男二人の道行の途中で何人かの女がからんでくる。一人は30代と思しき一人歩きの女性。甲高いアニメ声で喋り倒す彼女の喧しさに参ってしまうブライソンたちは、なんとかして彼女を撒きたい。そしてもう一人はカッツがナンバした太った中年女性。この映画があくまでも「男の話」である以上、女はトレイルという修行にとって夾雑物でしかない。この辺りも典型的なハリウッド映画と言えようか、女は男の敵、男の障害物なのだ。かくして女たちに攪乱され災いをもたらされ、逃げるように山を駆ける二人だった。この逃げ足の速さも爆笑ポイントです。

 見終わったあと、「わたしもトレイル、やってみたいなー」と思わせる映画。雄大な景色にもうっとりしたが、高所が怖いわたしには、崖っぷちに立ったり山肌を裂く棚のような危険な道を歩くなんていう芸当は無理。それでもやっぱり「トレイルやってみたいなー」


 というわけで、思わず「崖 道」で画像検索かけたら、出るわ出るわ、危険な道。100万円上げるから歩いてみよ、と言われてもお断り。

A WALK IN THE WOODS

104分、アメリカ、2015 
監督: ケン・クワピス、製作: ロバート・レッドフォードほか、原作: ビル・ブライソン、脚本: リック・カーブ、ビル・ホールダーマン、撮影: ジョン・ベイリー、音楽: ネイサン・ラーソン
出演: ロバート・レッドフォードニック・ノルティエマ・トンプソン
クリステン・シャール