吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

不屈の男 アンブロークン

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 こんないい映画が大阪ではたった2館でひっそりと上映されているなんて。ネトウヨのせいで、もうちょっとで公開も危うかったなんて。ネット上では厳しい感想も多く見受けたが、映画は物語であって事実をそのまま描くものではない。「事実」「史実」と細部が異なるからといってネチネチと批判するのは本筋から外れているのでは。


 日本軍将校が捕虜を虐待する場面に「反日的」という批判が出たというので、てっきり捕虜収容所の話かと思っていたが、実はそれは後半の展開であって、捕虜になるまでが長いのだ。全編に亘ってそれこそ主人公ルイ(ルイス)・ザンペリーニの不屈の波乱万丈が描かれる。イタリア系移民の子どもとしてやんちゃ時代を過ごしたルイは、陸上選手だった兄の叱咤激励を受けて、才能を開花させる。やがて高校生でベルリンオリンピックの5000メートル代表に選ばれるまでに成長する。
 その過去の場面と、1943年現在の爆撃手としての兵士ルイの戦闘場面が交錯する。開巻まもなくの場面は、爆撃機の中の息詰まる恐怖、ゼロ戦相手の戦闘が迫力たっぷりに描かれる。戦闘シーンの描き方一つをとってもアンジェリーナ・ジョリーの監督としての腕前が一級品であることがわかる。決して奇をてらったようなスタイリッシュな映像は見せない。しかし、十分に迫力ある戦闘シーンだ。ここでは敵機の姿は不気味な戦闘機としてしかとらえらえていない。飛行士の顔も何も見えないのだから、単なる不気味な敵である。日米の若者たちが命を散らしていく場面に心が痛むが、敵たる日本兵の姿は見えない。

 ルイの乗った飛行機はどうにか太平洋の島にある基地へと帰投を果たすが、再び飛び立った時には海に不時着することとなる。ここからが不屈の男の見せ場である。飛行機の搭乗員のうち、生き残ったのは3人。彼らはゴムボートに乗って太平洋を漂流する。3日で消えていく食糧。だが彼らは鳥を捕まえ、魚を釣り、ある時はサメと格闘してその身を貪りながら、どうにか生きながらえていく。とうとう20日も過ぎた。30日も過ぎた。刻一刻と弱り、やせ衰えていく彼らに情け容赦なく嵐が襲う。「この嵐を乗り越えて生きながらえることができたら、神にすべてを捧げます」とルイは祈る。

 彼らの漂流は結局45日に及んだ。皮を突き破りそうなほど骨ばってしまった役者の身体を見て、てっきりCGでごまかしたんだろうと思っていたら、本気で減量したらしい。その根性に感嘆! 
 ルイがこの過酷な漂流に耐えられたのは、さらにはその後2年間の日本軍捕虜としての虐待を耐え抜いたのも、類まれな体力と精神力があったからだ。彼の不屈さはまさにここで発揮される。

 ルイたちは太平洋上で拿捕され、東京の大森収容所に送られた。この収容所の渡辺所長が爬虫類のような気持悪い若者で、ネチネチと捕虜をいたぶり、とりわけルイを目の敵にしてたびたび暴行を加える。よくこんな気色の悪い役者が日本にいたものだと思ったら、世界的に活躍するギタリストだそうで。ルイの不屈な面構えを見た渡辺はそれが気に入らないと見えて、異様な執着をもってルイをいたぶる。
 不屈な男はその不屈の面構えゆえに虐待され、さらにその虐待を耐えることによっていっそう不屈さを増す。この、不屈のらせん階段を上がっていくルイ・ザンペリーニという若者のど根性に畏敬の念を抱き続けた137分だった。

 この映画のテーマは「許し」だ。戦時中に日本軍捕虜として虐待を受けた男が、戦後、来日して日本人と出会う。この最後の部分がなければ、一人のアメリカ人の不屈の魂を称賛して終わる映画であったが、最後の最後になって「許し」の場面が現れる。いや、別にルイが日本人を許したとかそういう場面があるわけではない。それでも、80歳のルイが日本人の歓声を受けて長野オリンピックの聖火ランナーとして走る姿を見たとき、わたしは目頭が熱くなった。惜しむらくは戦後の葛藤が字幕でのみ示されたこと。前半の漂流を半分に削って戦後の「許し」に至る過程をじっくり描いてほしかった。
 ぜひ大勢の人に見てほしい

UNBROKEN
137分、アメリカ、2014 
製作・監督: アンジェリーナ・ジョリー、製作: クレイトン・タウンゼントほか、原作: ローラ・ヒレンブランド、脚本: ジョエル・コーエンイーサン・コーエン、リチャード・ラグラヴェネーズ、ウィリアム・ニコルソン、音楽: アレクサンドル・デスプラ
出演: ジャック・オコンネル、ドーナル・グリーソン、MIYAVI、ギャレット・ヘドランド