吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

アメリカン・スナイパー

 なるほど、アカデミー賞の候補になるだけのことはある。なにしろ題材が「イラク人テロリストを160人以上殺した英雄」だし。つかみの編集も抜群によかった。天才的なスナイパー、主人公クリス・カイルが照準を定めているのは10歳ぐらいの少年とその母親らしき女。二人はロケット弾のようなものを隠し持っていることが、遠目にも確認できた。二人を撃つべきなのかどうか。クリスは悩み迷う。子どもを殺すのか?!

 いきなりのこの場面で観客も思わず画面に目が釘付けになる。ものすごい緊迫感だ。しかし、その緊張感が最後まで持続しないのがこの映画の最大の難点。その理由は、繰り返し描かれる出征風景が緊張感をそいでしまうからだ。反復は映画にとって長所となる場合もあれば短所となる場合もある。この映画の場合は欠点となった。戦場場面のクライマックスが何度もやってくるために、しまいには単調になる。実話なので話を極端に変えることができなかったのかもしれないが、もっとクライマックスを絞る演出にしてもよかったのではないか。

 というように、批判を書いたが、それはこの映画をエンタメ作として見た時の話であって、このシリアスな題材に面白さや緩急自在の緊迫感、などというものを求めてはいけなかったのかもしれない。


 2001年の9.11をきっかけに、「誰かを守ることが自分の使命」と信じた若者が兵士に志願する。そして彼はイラク戦争の戦場に何度も何度も出かけては、テロリストを射殺するスナイパーとしてその名をとどろかせたのであった。戦場で160人を殺した彼はやがて心身を病むようになる。極度の緊張が血圧を上げ、頻脈を呼ぶ。幻影がちらつき、精神が不安定になる。そういったことはもう十分いろんな映画で描かれているから、観客もみな知っていることだろう。しかし、知らないことがひとつあった。それはクリス・カイルがどのように死んだのか、ということだ。日本人は彼の死を知らない人が多い。彼の死が意味することをめぐってはさまざまな意見が出るだろう。実際この映画には賛否両論が渦巻いているそうだが、クリント・イーストウッドは「正義の論理」でせめてはいない。それだけに、この映画は観客が自分の見たいように見る作品だ。戦争賛美だととりたい人にはそう見えるし、反戦映画だと思いたい人にはそう見える。

 クリント・イーストウッドの監督作には期待値が高いだけに、この作品は期待したほどではなかった。後半になるほど演出が雑になっていることも否めない。とはいえ、一見の価値はあるので、まだ上映館があるならぜひ劇場で見てほしい。

AMERICAN SNIPER

アメリカ、2014.132分

監督: クリント・イーストウッド、原作: クリス・カイル 『ネイビー・シールズ 最強の狙撃手』、脚本: ジェイソン・ホール

出演: ブラッドリー・クーパーシエナ・ミラー、ルーク・グライムス 、ジェイク・マクドーマン