吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

ウルトラ I LOVE YOU!

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」で発達障害らしき息子の母親の苦悩を見事に演じたサンドラ・ブロック。その彼女自身がアスペルガー症候群と思しき女性を演じたコメディを思い出した。それは「ウルトラ I LOVE YOU!」という劇場未公開作。彼女はこの作品でラジー賞(アカデミー賞の前日に発表される最低映画賞)を受賞してしまったが、作品はそんなにひどいものではない。ということで、本作と、もう一つのラブコメを2作まとめてご紹介。

 いまの日本社会では、仕事に行けない若者たちの大半が、人間関係をうまく築けないとか、コミュニケーション力に劣るとか、神経質すぎるとか、そういった、「空気を読むのが苦手」「人と付き合うのが苦手」な人たちだ、と言われている。

 で、この映画の主人公メアリーもそういう「空気が読めない迷惑な女」だ。憧れのスティーヴに「しゃべる百科事典」とか言われてしまう。歩く百科事典じゃないところがいかにも可笑しい。メアリーはクロスワード・パズル作家で、一週間に一度ローカル紙にパズルを連載しているのだが、そんな程度で生活費が稼げるわけがない。結局両親の家に同居することになるわけで、彼女の自立はおぼつかない。いい年をして彼氏もいないから、親の勧めでブラインド・デートをすることになる。そのデートの相手のテレビ局のカメラマン、スティーヴに一目惚れしたメアリは、いきなりスティーヴを押し倒し、逃げる彼を追ってどこまでも! 嫌がられているとも知らずに押しの一手のメアリはストーカーまがいの追っかけぶりなのだが……。

 サンドラ・ブロックラジー賞最低女優賞を受賞して日本未公開。ん〜、でも、悪くないと思うけど。ドタバタコメディとしてはこれよりもっとひどい作品がいくらでもあるでしょうに。「悲劇」を追い求めるハイエナのようなマスコミへの批判も随所にちりばめ、たとえ他者には迷惑な存在でも一途な女は可愛いと思わせるサンドラの怪演とあいまって、なかなか面白かったです。

 単なるドタバタラブコメかと思っていたら、途中から突然「ツイスター」(1996年、ヤン・デ・ボン監督)並の巨大竜巻が発生したり、古い坑道が陥没して子どもたちが穴に落ちたりと、ディザスター映画に早代わりしたのにはびっくりした。スケールの大きなコメディだ(笑)。

 メアリはとにかく周りの迷惑を顧みずにしゃべり倒したり、相手の気持ちが忖度できなかったり、異様に記憶力がよかったり、自分の興味のあることにしか関心をむけないとか、妙なもの(赤いブーツ)にこだわりを持つとか、確かにアスペルガー症候群だと思わせる。彼女は「病気」なんだけれど、映画の最後にはその「病気」がかなり抑えられるようになって、メアリの成長物語にもなっているところが感動的(?!)。いい歳をして成長物語もなにもあったもんではなかろうが、さまざまな事件を経て、彼女なりに一つステップアップできていく、というところがなかなかいい話である。ラジー賞なんてとんでもないわ。(レンタルDVD)

ALL ABOUT STEVE
99分、アメリカ、2009
監督: フィル・トレイル、製作: サンドラ・ブロック、メアリー・マクラグレン、製作総指揮: テッド・フィールドほか、脚本: キム・バーカー、音楽: クリストフ・ベック
出演: サンドラ・ブロックブラッドリー・クーパートーマス・ヘイデン・チャーチ、DJクオール、ズ