吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ

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 いかにも女性監督が作った作品である。歴史に埋もれた才能ある女性を描き、彼女の美徳を踏みにじったオヤジ的存在の不遜なル・コルビュジエを批判する。

 確かに、女性でありながら1920年代一流のインテリアデザイナーとして認められていたアイリーン・グレイは、彼女より若い世代のル・コルビュジエにとっては嫉妬と羨望の対象であったのだろう。だから、彼が傲岸不遜に「芸術家のおかげでこの家が素晴らしくなった」と嘯く下品な壁画は、ル・コルビュジエにとってはアイリーンへの嫉妬の現れと意趣返しだったとともとれる。

 アイリーンが恋人のために建てた代表作“E.1027”という美しい海辺の家のコンセプトを踏みにじって、ル・コルビュジエは好き勝手に性的妄想たる現代絵画を描きなぐったのだ。彼が美しい海辺の家に入り浸っていたため、その家はル・コルビュジエが設計したと世間では思われていた。実際にはアイリーンが設計して恋人のジャン・バドヴィッチに贈ったものだ。後年、法外な値段で競売にかけられている。

 女の才能に敬意を表しながらも嫉妬する男はル・コルビュジエだけではない。建築家で雑誌編集者でもあったジャン・バドヴィッチもまた同じ。恋人であるアイリーンと共同名義で発表すべき作品について自分の名前だけを大きく書いてしまうという小物ぶりで、アイリーンに冷笑される。ジャンがやたら浮気しまくるのもアイリーンの存在が偉大過ぎたからかもしれない。

 映画は冒頭、アイリーン・グレイがデザインした家具がオークションにかけられている場面から始まる。せりあがる価格はついに28億円(当時)にまで跳ね上がり、史上最高値で落札された。これが2009年のことである。映画はここからさかのぼっていくのだが、時系列がわかりにくいため、観客は混乱するだろう。オナシスが彼女の代表作である住宅を落札しようとするシーンはどういう意味があるのか、さっぱりわからない。

 現代建築史や美術史に造詣が深くないと面白みが半減してしまう映画だ。こういう映画を見てふつうに感動できるヨーロッパの観客の教養の深さには脱帽してしまう。わたしは浅学につき、面白さがさして理解できなかった。とはいえ、美しきデザイナー、アイリーンの悔しさが寡黙な彼女の意志の強い表情からにじみ出ていて、たいそう美しく凛々しく、惹かれるものがあった。アイリーンと恋人ジャンとの付かず離れずの関係も摩訶不思議で、なんだかんかで二度見してしまったよ。

 美しい家、美しい家具、美しい女性、そいういうものが好きな人にはお薦めの映画だが、万人受けは絶対にしない。(Amazonプライムビデオ)

2014
THE PRICE OF DESIRE
ベルギー / アイルランド  Color  108分 
監督:メアリー・マクガキアン
製作:
メアリー・マクガキアンほか
脚本:メアリー・マクガキアン
撮影:
シュテファン・フォン・ビョーン
音楽:
ブライアン・バーン
出演:
オーラ・ブラディ、ヴァンサン・ペレーズフランチェスコ・シャンナ、アラニス・モリセットドミニク・ピノン、アドリアーナ・ランドール