この映画はフランス在住の愚息Y太郎(31歳)が先に見て、「アホすぎて疲れた。二日酔いのタランティーノが書いた脚本を園子温が撮ったみたいな映画やった。見るだけでIQが30くらい下がる」という感想を送ってきたので、逆にすごく見たくなったのであった。
で、いそいそと映画館へ。「ばか映画もバカがすぎるとあかんわ」とY太郎にこき下ろされた作品だが、わたしは十分楽しんで帰宅。早速Yに「ブレットトレイン、めっちゃ面白かったやないの」とメッセージを送ったら「箸が転んでも笑いそうやな(笑)」と返された。
いやほんま、リアリティ0ミリの映画って気持ちいいわー。殺し屋たちが無駄におしゃべりをするところなんか、完全にタランティーノの「パルプ・フィクション」。今回のおしゃべりのネタは「きかんしゃトーマス」で、これ、著作権料を払ったんかな気になるところ。
原作が伊坂幸太郎なのに、原作と違って登場人物はあらゆる肌の色の多国籍の役者が演じていてすごく面白い。ブラッド・ピットが主役っていう時点でどんだけ原作から逸脱するんかと期待に胸が膨らむ腹も膨らむ。原作未読のわたしにとっては逸脱度を測る巻き尺がないのだが、それでも映画を見ながら、「原作はどうなってたんやろ、後で確かめようっと」と興味津々だったし、とにかく最後まで全然飽きずに見ていた。
で、ストーリーはというと、小者の殺し屋レディバグ(テントウ虫)が謎の女性マリアから指令を受けて、東京駅発の超特急に乗り込む。彼のミッションはブリーフケースを見つけて盗み、列車を降りること。それは1分で終わるはずだったのに…。次から次へと難問奇問が立ち現われ立ちふさがり、レディバグは列車から降りられない。そうこうするうちにいつの間にか列車内は殺し屋だらけになる。なぜか3組の殺し屋ストーリーが並行して絡まりあい、死体だらけになっていく。という大混戦もの。
流血!銃撃!乱闘!毒殺!アクションアクションアクション! その合間にきかんしゃトーマス愛を語る愛嬌たっぷりの殺し屋たちのおしゃべりが延々と続く。列車には怪しい女子学生が乗り込んでいて残忍にもスパスパと人殺しを計画し実行に移す。
という実に恐ろしいお話なのだが、ほぼコメディなので笑っているうちに気が付けば二時間が過ぎている。最後はちょっと怖すぎたが(やりすぎちゃうのん)、こういう映画はあほらしくてよろしい。ものすごく金がかかっていることだけは確かで、出演陣は豪華で、チャニング・テイタムが出てきたときには驚いた。そういうチョイ役でこの人を使うのね、もったいない。
ストーリーのあほらしさを補って余りあるキャラクターの面白さが卓抜で、アクションの見せ方も実に小気味よい。ブラッド・ピットもそろそろ還暦のはずだがアクションシーンの見せ場をしっかり演じているところはさすがにプロだ。伏線がいくつも回収されていくところも大変気持ちよい。なんにも考えずにただ見ているだけの映画というのもたまにはよろしいなあ。
ちなみに、フランスの映画料金は安いので、つまらない映画のときはフランス人は簡単に席を立って帰ってしまうそう。カネより時間が惜しいというわけね。Yもつまらない映画は20分以内に退席するらしいが、今回この映画を見に行った第一の目的は避暑だったので、最後まで見ていたという。彼とそのつれあいが住むアパルトメントにはエアコンが付いていないから、今年の猛暑は地獄だったらしい。街には誰も歩いておらず、命の危険すら感じたという。ヨーロッパの異常気象はほんとうに尋常ではない。ゴダールもこんな異常気象に人類滅亡の道を見たのか、絶望して自死したんじゃないかという解釈もありえるかも?
2022
BULLET TRAIN
アメリカ Color 126分
監督:デヴィッド・リーチ
製作:ケリー・マコーミック、デヴィッド・リーチ、アントワーン・フークア
原作:伊坂幸太郎 『マリアビートル』(角川文庫刊)
脚本:ザック・オルケウィッツ
撮影:ジョナサン・セラ
音楽:ドミニク・ルイス
出演:ブラッド・ピット、ジョーイ・キング、アーロン・テイラー=ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、アンドリュー・小路、真田広之、マイケル・シャノン、ベニート・A・マルティネス・オカシオ、サンドラ・ブロック