吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

ミックマック

「アメリ」のジャン=ピエール・ジュネ監督の最新作。わたしには「アメリ」よりかなり面白かった。美術の懲り方なんて、ゾクゾクする。

「ミックマック」とはフランス語で「いたずら」の意味という。文字通り、ノンストップの壮絶ないたずらが繰り広げられる。父親が30年前に北アフリカで地雷に触れて死に、自分はギャングの流れ弾に当たって頭の中に弾丸が残ったまま、という不幸で孤独な中年男バジルが、仲間の奇人変人とともに、自分の人生を台無しにした地雷製造会社と弾丸製造会社に報復するという抱腹絶倒のドタバタコメディ。


 30年前の父の死で家庭崩壊し、さらに弾丸が頭に入ったせいでバイトもクビになったバジルが流れ着いた洞穴のような暗くて広い部屋は、奇妙な道具だらけ。それ以上に奇妙な人間だらけ。いずれも世の中からはみ出した孤独な奇人たちが寄り集まって共同生活を営んでいるのだ。この奇人たちがそれぞれに特技を持っていて、彼らはその特技を活かしてバジルの復讐に手を貸す。後半、兵器製造会社の社長たちに復讐を開始する場面の手際のよさとノンストップのアクションは「スパイ大作戦」か「オーシャンズ11」か、という面白さ。とりわけ、上海雑技団もびっくりという軟体女の得意技には開いた口がふさがらない。わたしもたいてい身体が柔らかいのが自慢だが、あの人体二つ折りは絶対に真似できません。ほかには、瞬時になんでも目視で計測できる女とか、人間大砲のギネス記録保持者とか、おんぼろロボット製作者とか、元民俗学者の言語オタクとか、いろいろ集まって仲間は総勢8人。


 個人的にウケたのは、彼らのアジトの薄暗い雰囲気と、満載の小道具の凝っているところ。美術がいい仕事をしている映画は見ていて楽しい。画面は全体にオレンジ色がかかった油絵のようなこってり感がある。アジトの雑然とした小汚さに対比して、兵器会社社長たちの家のピカピカに美しいところがまた面白い。そのうえ、彼らの家を盗聴するバジルたちの手法があまりにもアナログで笑える。二つの兵器会社が通りを隔てた向かい同士に建っていて、そのライバルぶりを煽るのがバジルたちの復讐計画だ。社長がマリリン・モンローの臼歯とかチャーチルの爪とか、自宅に妙なコレクションを持っているのもお笑い種。


 ジュネ監督は「ふつうの反戦映画にしたくなかった」そうで、この映画、全然ふつうじゃありません。でも、地雷で手足を失った子どもたちの写真が映る場面なんてマジに反戦のメッセージが表出していて、「あ、これ、ひょっとして真面目な映画?」なんて一瞬思ってしまったけど、次の瞬間には真面目が脱構築されるので、やっぱりこんなふざけた映画、笑って楽しむ意外になさそう?


 最後にふと思ったけれど、武器を作る者たちも悪いけれど、それを使う人間がいるから供給はなくならない。権力や圧政や侵略と戦うのにも武器を使うわけで、誰がそれを手にするのかで「よい武器と悪い武器」に分かれるというのもおかしな話だ(何十年も昔に核兵器の階級性をめぐって論争があったことを思い出す)。案外、社長たちがわめいた言葉には真実が宿っているのではないか。「テロには賛成だ、IRAにも武器を売った」なんてね。

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MICMACS
105分、フランス、2009
製作・監督・脚本: ジャン=ピエール・ジュネ、製作: フレデリック・ブリヨンほか、共同脚本:ギョーム・ローラン、美術: アリーヌ・ボネット、音楽: ラファエル・ボー
出演: ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエ、オマール・シー、ドミニク・ピノン、ジュリー・フェリエ、ニコラ・マリエ、ヨランド・モロー、ジャン=ピエール・マリエール、ミシェル・クレマデ、マリー=ジュリー・ボー