吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ミケランジェロ・プロジェクト

 

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 これは「黄金のアデーレ」とカップリングで見たい映画。
 ナチスが強奪した美術品数百万点を取り返すべくアメリカからヨーロッパに派遣された中高年部隊「モニュメンツ・メン」の奮闘物語。


 1944年7月、ノルマンディに上陸したモニュメンツ・メンのメンバーは以下の通り。

フランク・ストークス:メンバーのリーダー。ハーバード大学付属美術館館長
ジェームズ・グレンジャー:メトロポリタン美術館学芸員
ドナルド・ジェフェリーズ:イギリスの歴史家
リチャード・キャンベル:シカゴの建築家
ジャン=クロード・クレルモン:フランスの美術商
プレストン・サヴィッツ:美術史学
ウォルター・ガーフィールド:彫刻家


 彼らは自分たちの息子ぐらい若い新兵に交じって軍事訓練を受け(そもそもその場面がお笑いネタ)、最前線へと繰り出す。もはや戦争は末期であり、連合軍の勝利は目の前だった。しかし、それゆえにナチスが強奪した美術品の行方が危うくなっていたのだ。そして、戦争の最前線ではヨーロッパの伝統的な建物や美術品が情け容赦なく破壊されようとしていた。しかも、味方の将校への彼らの「貴重な建築物を破壊するな」という懇願は、「何を言うんだ! 教会の塔の中には狙撃兵が隠れているんだ。それを爆撃するなと言うのか、ボケナス!」と言う一喝のもとにもろくも崩れさる。

 美術品を守るという使命のために、モニュメンツ・メンは戦闘の最前線へと行かずにはいられない。そのころ、ヒトラーは「総統美術館」建設のために強奪してあちこちに隠していた美術品をすべて破壊しようとしていた。敗戦によって自分のものにならないのなら、すべて破壊する。それがヒトラーの考えだった。

 ドイツ占領下のパリでは、ジュ・ドゥ・ポーム国立美術館に集められた強奪品が、ヘルマン・ゲーリングによって品定めされていた。美術館の学芸員クレール・シモーヌは、強奪品のすべてを細かく記録し、その隠し場所をノートに書き留めていた。この緻密な「目録」がなければ、モニュメンツ・メンは隠された文化財を見つけることはできなかっただろう。記録の重要性が強調されている点で、この映画はアーカイブズ映画と考える。

「歴史と文化は一度失われてしまえば取り返しがつかない」というセリフはわたし自身が何度も語ってきたことだ。身を挺して文化つぶしに抵抗してきた身としては、この映画はあまりにも響くものがあり、冷静な目で見ることができない。「芸術品は命を懸けてでも守る価値があるのか?」という問いに「まさにその通り」と答えるスターク教授の言葉が重い。

 題材は大変興味深かったのだが、テーマに対してこの演出は軽すぎないか? 戦闘シーンは金がかかっていることを実感させる大規模なものであり、国際的俳優を配役した豪華キャストであり、やたら製作費がかかっている映画であり、見ごたえはあるが、少々ドタバタが過ぎるかもしれない。人物像はかなり脚色されているようで、セリフは面白可笑しい。シモーヌケイト・ブランシェットとメトロポリタン学芸員マット・デイモンとのロマンスもなかなかおしゃれに演出されていて映画的には面白いのだが、演出に対する好みは分かれそうだ。

THE MONUMENTS MEN
118分、アメリカ、2013 
製作・監督・脚本: ジョージ・クルーニー、製作総指揮: バーバラ・A・ホール、原作: ロバート・M・エドゼル 『ナチ略奪美術品を救え』、脚本:グラント・ヘスロヴ、音楽: アレクサンドル・デスプラ
出演: ジョージ・クルーニーマット・デイモンビル・マーレイジョン・グッドマンジャン・デュジャルダンボブ・バラバン、ヒュー・ボネヴィル、ケイト・ブランシェット、ディミトリー・レオニダス