吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男

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 ナチスの戦犯アイヒマンを逮捕することに執念を燃やしたユダヤ系ドイツ人検事長、フリッツ・バウアーの物語。「顔のないヒトラーたち」ではバウアーの部下である若手検事が活躍したが、「アイヒマンを追え」では架空の人物ではなく実在のバウアーが主役となるため、作り話に特有の華の部分がなく、娯楽性に欠けた作品である。しかしその分、バウアーの駆け引きの面白さが際立つ政治ドラマになっている。
  バウアー検事長が自殺未遂する場面から始まる。彼の苦悩、彼が負ってきた心の傷がこの場面でまずは観客に強く印象付けられる。ユダヤ人でありゲイであるバウアーがなぜアイヒマン裁判やアウシュヴィッツ裁判に執念を燃やすのか。その心性の一端がここで説明されている。

 追われるアイヒマンを描くよりも、追うバウアーを描くほうが興味深いかもしれない。なによりも、バウアーという人物のことも、なぜモサドアイヒマンを逮捕できたのか、その裏話も知らなかったので、わたしには大変興味深かった。戦後の西ドイツにはナチスの残党が権力内に多く居て、戦犯追及を邪魔していたという事実も日本と似ている。西ドイツは徹底的にナチスを排除する政策をとっていたはずと思っていたのだが、実はそうではなかったのだ。戦後間もないころは誰もが戦犯と名指されても仕方がない状況だったし、後ろめたい人々が多かったことだろう。ユダヤ人バウアーが被害者として復讐に走るという図ならわかりやすいが、本作ではそのような描き方をしていない。

 建国間もないイスラエルモサドの状況がまた興味をそそられた。ナチスものはもうたくさんだ、という気がしていたが、まだまだ知らないことは多いのだなぁと痛感した次第。(U-NEXT配信) 

DER STAAT GEGEN FRITZ BAUER

105分、ドイツ、2016

監督・脚本:ラース・クラウメ、製作:トマス・クフス、音楽:ユリアン・マース、クリストフ・M・カイザー

出演:ブルクハルト・クラウスナー、ロナルト・ツェアフェルト、リリト・シュタンゲンベルク、パウルバスティアン・ブロンベルク、ミヒャエル・シェンク