どこにも奇をてらったところがない、かっちりと作られた落ち着いた作品。それだけに映画的カタルシスに欠けるうらみはあるが、しみじみと後から沁みてくる感動がある。大人向けの作品といえよう。
ワイオミング州の豊かな大地の緑が美しい。ロバート・レッドフォードとモーガン・フリーマンが持ち味をみせてすごく味わいのある演技を披露している。
DV男から逃れて亡夫の父のもとに娘と共に避難してきたジーン(ジェニファー・ロペス)。舅であるアイナー(ロバート・レッドフォード)は最愛の息子を事故で亡くして以来、不機嫌なまま暮らしている。ジーンが連れている11歳の孫娘グリフを初めて見て驚くアイナーは、亡き息子の面影を残すグリフを可愛がる。アイナーとグリフの会話が微笑ましい。グリフはおじいちゃんにとても丁寧な言葉遣いをするのが好ましく感じられ、祖父と孫娘との絆がどんどん深まる様子が観客の心を和ませる。
ジーンとアイナーは互いに喪った者への愛にさいなまれ、心を通わせることができない。そんな様子を隣家から眺めているアイナーの親友ミッチ(モーガン・フリーマン)がとてもいいキャラクターだ。ミッチは熊に襲われて大怪我をして寝込んだまま、毎日アイナーの手当てを受けている。
主な登場人物はこの4人で、彼らの生活が淡淡と描かれ、時々熊が登場する。この熊がちょっとしたかく乱要因で、映画にリズムをつけるのだが、かといって別にサスペンス風でもなく、またDV男の襲撃というのも恐怖なのだがこれまたたいしたことでもなく。というように、どこといってドラマティックなところのない作品。映画に何を求めているかによって評価がまったく分かれる。大人たちの心のさざ波をしみじみと味わいたい人にだけお奨め作。劇場未公開なのもやむなしか。(レンタルDVD)
AN UNFINISHED LIFE
108分、アメリカ、2005
監督: ラッセ・ハルストレム、製作: レスリー・ホールランほか、脚本: マーク・スプラッグ 、ヴァージニア・コラス・スプラッグ、音楽: デボラ・ルーリー
出演: ロバート・レッドフォード、ジェニファー・ロペス、モーガン・フリーマン、ジョシュ・ルーカス、ダミアン・ルイス