吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ぼくたちのムッシュ・ラザール

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2012年のベスト作品でレビュー積み残しをさらえていくシリーズ第1弾。

 

 よくこの尺でここまで説得力のある作品を作ったものだと感心する。無駄が一切ない、しかも間違いなく観客を惹き付ける豊かな語りがある。無駄がないのは、原作が戯曲だからだろうか。

 カナダのモントリオールにある小学校で若い女性教員が自殺する。その首吊り現場を偶然にも二人の生徒が目撃してしまった。目撃した生徒達は大きな心の傷を負い、代わりの担任教員もなかなか決まらない。そこに現れたのが、バシールラザールというアルジェリア出身の先生だった。ただちに採用されたラザール先生は、時代遅れの教育方法で生徒たちの心を解きほぐしていくが…。

 

 自身がテロ事件の被害者であり、亡命を余儀なくされた移民であるラザールは、心に大きな傷を負っている。同じく心に傷を負った少年とは、そんなに簡単にわだかまりが解けていくわけではない。この、ひねくれた少年を演じた子役が素晴らしい。同じく担任教員の自殺現場を見てしまった少女役とともに、この二人の演技の瑞々しさが映画を引き立てている。

 じっくりゆっくり紡がれる物語は、教員の自殺の原因を探っていく心理ミステリーでもあるが、同時に、学校で画一的に行われる現代の教育方法への大きな疑義を挟みつつ、登場人物たちの心を痛いほど掬い取っていく秀作だ。

 教育に対しては万人が一家言を持つ。誰もが学校を経験しているからだ。どんな教育が理想なのか、それは一概には言えないし、誰にも断定できないことかもしれない。ラザール先生の教育は、その一つの形を現した。そして人生は続く。そして子ども達は苦しみながら成長する。そしてラザール先生は…。

 もう一度見てみたい映画。(レンタルDVD)

MONSIEUR LAZHAR      

95分、カナダ、2011    

監督・脚本: フィリップ・ファラルドー、 原作戯曲: エヴリン・ドゥ・ラ・シェネリエール 、音楽: マルタン・レオン    

出演: フェラグ、ソフィー・ネリッセ、エミリアン・ネロン、ブリジット・プパール、ダニエル・プルール