山形県酒田市に属する飛島は、日本海に浮かぶ離島である。人口は140人、平均年齢70歳。本作は島びとの暮らしを1年間撮影したドキュメンタリー。
この映画には主人公がいない。様々な島民の群像が淡々と描かれていく。
一人暮らしのお婆さんが夫や息子に先立たれたことをつぶやき、移住してきた介護施設経営者夫婦が島にやってきたいきさつを語り、老漁師が歳をとったと嘆く。ゴミを拾うことを生きがいにして島に移住してきた人までいる。
飛島小中学校には生徒はたった一人、中学3年生男子が在籍するのみ。彼が卒業すればここは休校になる。今日は1学期の始業式。校長や担任の先生がにこやかに見守るなか、受験生としての決意表明を語っている。一人の生徒に4人の教師という手厚い教育ぶりには目を見張る。
この島では神事が多いことが目を引く。海で命を落とす漁師の島だからだろう、神への祈りは欠かせない。春の大祭、盆の仏事といった伝統行事がコミュニティを繋いでいるのだ。
島では若者を中心に新たに合同会社が立ち上げられ、雇用を維持していこうと奮闘している。猟師の子ども世代が観光業などで島を活性化させようと、移住者たちの雇用を確保すべく新たな取り組みを始めたのだ。過疎の島はとかく限界集落と呼ばれそうだが、ここには何かしら光が見えている。それはいまだかすかな光だが。
ついに最後の中学生が卒業式を迎えることとなった。島民総出で一緒に文化祭を楽しんだのが昨日のことのようなのに。彼の卒業式では多くの来賓が見守る中、教師も感極まって祝辞を述べる言葉に詰まり、見ているほうももらい泣きしそうだ。
最後の中学生がいなくなったあと、この島はどうなるのだろう。このまま人口減となり消えていくのか、島で生きようとする若いUターン世代が未来を拓くのか。誰にも先は見えないけれど、なんとかなるのでは、というのんびりした気持ちにさせてくれるところが心地よい映画だ。
ラストになって、海に埋没しそうな平らなこの島の四季を楽しみながら映画を見ていたことに気づいた。そうだ、この映画の主人公は島そのものだった。
海岸で拾う海藻、海から上げた大きな蛸、美味しそうなサザエ、緑豊かな海岸線。コロナ禍が収束したら必ず行こう、と思う。
今、この島の人たちはどうしているのだろうと気になったので、調べてみた。「飛島に来ないでください」という酒田市役所からのお願い文が役所のWebサイトに掲載されていた。とても悲しい。医者がいないあの島では万が一のことがあれば島民が全滅してしまうかもしれない。来ないでという悲痛な叫びは理解できる。でも合同会社の人たちが立ち上げた宿舎やカフェはどうやって維持できる?
この映画を見終わったあとにとびしま合同会社のサイトを読んでみた。単なる観光業の島おこしだけではなく、資料館を運営したりといった民俗的な記録の収集保全にも取り組んでいる。彼らの事業をもっと知りたいと思った。ぜひ映画の続編を作ってほしいものだ。次はこの会社を主役にしてほしい。 (機関誌編集者クラブ「編集サービス」2020年5月号に掲載した記事に追加)