韓国を舞台にした韓国語の映画であるにもかかわらず、韓国映画の湿っぽさがないのは、監督が祖国を離れて長い、もはやフランス人と化した韓国人であるからだろう。ウニー・ルコント監督自身の自伝的要素が色濃い、1975年の韓国、孤児院を舞台にした少女たちの物語。
主役のジニを演じた子役が素晴らしい。よくぞ見つけてきたものだと感動するぐらい、9歳のジニを演じたキム・セロンが上手いのだ。ジニは父に連れてこられたカトリック系の孤児院で、かたくななまでに現実を受け入れずに「必ずアッパ(お父ちゃん)が迎えに来る」と信じて疑わない。一張羅のよそ行きを着て、特大のケーキを持ってやってきた孤児院が、父との永遠の別れの場所とは知る由もなかったのだ。記憶の中の父はもう遠い存在なのだろう。ジニの輝く笑顔がアップで映る巻頭、父の顔が画面に映らないし、その表情もまた判然としない。ジニの視点で描かれた本作では、やさしい父は大きな背中の記憶だけを残して行ってしまった。
孤児院にやってきた当初、仲間にまったくなじまないジニを、先輩少女たちが苛める。このまま陰惨な虐めが始まるのかと思いきや、むしろそれは先輩少女たちの手荒な歓迎であったことがわかる。いつしかジニは2歳年上のスッキに気に入られ、二人は仲良しになる。アメリカ人の養女になりたくてたまらないスッキは英語を懸命に練習し、孤児院を訪れるアメリカ人夫婦たちに何かと英語で話しかける。その拙い英語が笑えるし、その露骨な媚売りが観客の冷笑を誘う。ジニとても同じようにスッキを見ていたのだろう。ジニは無口で、いつも冷めたた目で自分の周りを見ている。冬のさなかに拾った傷ついた小鳥をスッキと一緒に看護するのだが、その小鳥が死んでいくのをただ無力に眺めているしかない。ジニはいつでも自分の周りで起きることがらを醒めた目で見ていた。
そしてある日、ジニはとうとう自分を「殺す」ことにする。死んだ小鳥と同じように、自分を埋葬するのだ。その息を呑むような寒々とした場面には、この少女が9歳にして人生のはかなさと不条理を悟ってしまった冷酷さが漂う。
1975年。まだ韓国は貧しく、そして言論の自由もなく、パク・チョンヒ政権は末期を迎えていた。その時代の雰囲気を寂しい孤児院に集約させたかのような凝縮した画面作りには感嘆する。そして特筆すべきはキム・セロン。固い表情でいつも不貞腐れているジニを演じつつ観客の共感を呼ぶという離れ業をやってのけた。ジニが涙ながらに自分が父に捨てられた理由を語る場面では、この子役の天才ぶりに震撼させられた。
子ども時代、心の奥に屈折したものを秘めていた覚えのある大人なら、きっとこのジニの孤独と諦念に胸ふたがれるだろう。やがて少女は大人になる。わたしたちはジニの心を忘れて大人になる。ジニだけではない。この孤児院に暮らす少女たちは一様に、屈折を乗り越えて成長していく。子ども時代の何かをここに捨てて。蛍の光の歌と共に。
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A BRAND NEW LIFE
92分,韓国/フランス,2009
監督: ウニー・ルコント,製作: イ・チャンドン,
出演: キム・セロン,パク・ドヨン,コ・アソン,パク・ミョンシン,ソル・ギョング