吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

シャッター・アイランド

 親子3人で鑑賞。Y太郎とわたしは同じ意見。「ストーリーはともかく、撮影と美術が素晴らしい。絵がいい」。それにしてもYはこの春から映像学科に進学し、毎日毎日浴びるように映画を見ている。大学での勉強が映画史とか撮影技術論だなんて、なんといううらやましさ。授業を休むときは母と代わりなさい!


 さて、物語は。
 周りを海に囲まれた孤絶の島、そこは重罪を犯した囚人達が患者として隔離されている、全島が精神病院という場所だ。脱出不可能なはずの独房(独居室)から一人の女性患者が忽然と姿を消した。その謎を解くために派遣されてきたのが主人公レオナルド・ディカプリオ保安官とその相棒のマーク・ラファロ。二人は謎の失踪事件を追ううちに、この島の異様さに気づく。この島には何かが隠されている。ここにいると身に危険が迫ると悟ったディカプリオたちは島を抜け出すことにするが、折しも嵐が近づき、フェリーは出航できない……


 おどろおどろしい音楽、重厚な絵作り、まさに雰囲気はぴったりなシャッター・アイランド。この物々しさと禍々しさはさすがのスコセッシでございます。しかし雰囲気倒れという気が…。結末をしゃべるなという字幕が最初に出るけど、そんなの、映画ファンならすぐに気づくよ、真相に。余計な字幕を入れたためにかえって興がそがれた。これは謎解きのストーリーを追うよりも、雰囲気にどっぷり浸かって楽しむ映画。


 時代が1954年というところがミソ。第2次世界大戦の傷跡がまだ癒えない時代の物語。これは、「戦後をどう生きるか」という、イラク戦争後を見据えた今のアメリカにとっても避けて通れない問題。戦場でのトラウマに加えて、妻が焼死したという二重のトラウマに苦しむ主人公は、妻の幻に苦しむ。薬の副作用による幻覚も彼を苦しめ、シャッター・アイランドの謎が深まるにつれて彼の苦悩は一層深まる。


 この映画は、もったいぶった謎解きに目を奪われるよりも、戦後の苦悩を生きる人々の悲劇に心を揺さぶられるほうがよほど映画を<楽しむ>ことができる。そう思ってみればなかなかの出来である。役者はみな演技達者なベテランばかり。ディカプリオも熱演している。



 ところで、ロボトミー。この言葉を久しぶりに耳にしたので、ロボトミー手術を広めたウォルター・フリーマンの伝記『ロボトミスト』http://d.hatena.ne.jp/l-library/20091028が未読であったことを思い出した。

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SHUTTER ISLAND
138分、アメリカ、2009
監督: マーティン・スコセッシ、製作: ブラッドリー・J・フィッシャー、原作: デニス・ルヘイン、脚本: レータ・カログリディス、撮影: ロバート・リチャードソン
出演: レオナルド・ディカプリオマーク・ラファロベン・キングズレーミシェル・ウィリアムズエミリー・モーティマーマックス・フォン・シドーパトリシア・クラークソン