吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

アバター

 年末に家族全員で鑑賞。


 先住民を虐殺したアメリカ建国のトラウマを癒す物語。世間では3D映像の技術的なことばかりが取りざたされるが、この映画は<国民の歴史><アメリカ人の記憶>を鎮める役目を果たす映画なのだ。トラウマをなぞることによって傷を癒す。これはアメリカ人の良心に訴えその血塗られた建国神話を正すことによって治療するトラウマ映画の典型だ。


 とはいえ、やはり3D。家族全員が「目が疲れた。しんどい」を連発するような映画であり、わたしのように眼鏡の上に3D眼鏡をかけるとすごい肉体的負担になる。そのうえ3D眼鏡が大きいからずり落ちてくる。2時間以上の上映時間じゅう、ずっと手で眼鏡を押さえ続けていた。これだけでかなりの疲労である。眼鏡をかけなくても3D映像が見られるようになれば、3Dは映画の主流になるだろうが、現状ではかなり難しいと思う。それにこの作品に限っていえば、3Dの特性をそれほど活かしていたとは思えない。とにかく疲れたのでわたしは途中で少し寝てしまった。S次郎も寝そうになったと言っていた。我が家で唯一満足していたのは父だけだったような…。ま、うちは家族全員(除く約1名)が頭が小さいために眼鏡がずり落ちて大変だった。


 ナヴィという先住民が住む惑星に超レアもの貴金属があり、それを採掘するためには先住民に移住して欲しい。しかし、彼らは聖なる森から動こうとしない。動かないなら力づくで…というのが本作のストーリー。まさにアメリカ大陸に侵略したヨーロッパ人の物語をそのままなぞるプロットだ。ここで面白いのは、先住民「ナヴィ」のDNAと人間のDNAを結合させて「アバター(分身)」を造り、ナヴィたちの中にとけ込んで彼らを説得しようという<懐柔工作>。そのために派遣されたのが戦傷兵だった、というところがまずは設定のミソ。そしてアバターを送り出した元海兵隊員ジェイクは、ナヴィ族の娘と恋に落ち…。とまあ、後は想像通りの展開。でもひねりは、アバターを動かすのが「リンク」と称するシステムであり、実物のジェイクは棺桶みたいな機械の中で眠り続けて、自分のアバターにリンクして操る。このあたりは「マトリックス」のようなお話。リンクの電源が切れれば、アバターのほうは突然意識不明に陥るのだ。


 随所に日本のアニメの影響がうかがえる。ナウシカ、ガンダム。3D映像という点を除けば目新しさはないのだが、最後の戦闘シーンは相当の迫力であり、たっぷりその重量感とスピード感を楽しめる。恋愛あり、アクションあり、環境問題あり、戦争あり、といまどきの問題やテーマを全部詰め込んであるのでかなり満腹感がある。


 家族そろって楽しめる映画、という意味でお奨め。え? いよいよ上映終了? 昨日、S次郎がもう一度観たいと言っていた。

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AVATAR
162分、アメリカ、2009年
製作・監督・脚本: ジェームズ・キャメロン、製作総指揮: コリン・ウィルソン、レータ・カログリディス、音楽: ジェームズ・ホーナー
出演: サム・ワーシントンゾーイ・サルダナ、シガーニー・ウィーヴァー、スティーヴン・ラングミシェル・ロドリゲス