吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

アイランド

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 「スターウォーズ エピソード3」さえなければこの夏いちばんのヒット作になりそうな、大迫力カーチェイスの眩暈シーン続出娯楽大作であります。うちの男どもならウハウハと喜びそう。中身はスカスカでもアクション・シーンの連続に酔えるという前評判を聞いていたんだど、やっぱりそういう作品でありました。

 舞台は2019年のロサンジェルス。臓器移植のためのクローン人間培養が既に営利企業の手によって行われているという設定。クローンたちは数ヶ月で依頼主と同じ姿かたち年齢に培養され、数千体が地下壕で完全な管理体制のもと衛生的で健康な生活を営み、臓器を取られる日を待っている。彼らは自分たちがクローンという名の「商品」であることを知らない。そして、夜毎繰り広げられる抽選に当選すれば理想郷「アイランド」へ行けると信じ込まされているのだった。
 だがある日、事実を知ってしまったリンカーンユアン・マクレガー)とジョーダン(スカーレット・ヨハンソン)が命がけで逃亡を企てる。クローン会社の経営者であるメリック博士(ショーン・ビーン)が差し向けた追っ手の殺人部隊が迫る。近未来のロスを部隊に超ド級のカーアクションが繰り広げられる! はたしてリンカーンとジョーダンは逃げおおせるのか?! 近未来のロスがものすごく進んでいる。たった14年後にあんなになるわけがない。空飛ぶバイクなんてすごいよね、このカーチェイス場面は目が回った。「マトリックス2」のカーチェイスを超えたんじゃないか。しかしこういうのはエスカレートする一方だから、そろそろ目先を変えたほうがいいかも。 
 中身がスカスカという話だが、どうしてどうしてテーマは奥が深い。ただ、その煮詰め方や処理の仕方に工夫も味わいもないのが残念。臓器移植問題にからんで、生命倫理学者のあいだでは既にこういう問題は議論の俎上にのぼっている。臓器移植のためにクローン人間を作るというのは極端な話だが、臓器だけならクローニングしてもいいのではないかという話は出ているらしい。臓器移植先進国のアメリカではこういった問題への関心が高いのだろう、クローン人間を題材にした映画は多い。

 自分が延命し若返るためにクローンを作るという発想は楳図かずおの漫画『洗礼』を連想させる。『洗礼』は、母親が自分の若返りのために娘を産み育てるという話だったけど、「他者」を犠牲に自分のいのちを永らえるという点は同じなのだ。クローン技術が実現すれば、当然にもクローンの人権問題や社会的差別という新たな問題が起きるはずだし、そもそもクローンを作ることの倫理的危険性や、「他者」とはなにかをめぐる哲学的議論とか、問題は山のように出るはずだが、この映画にそういう問題提起を期待してもだめ。
 でも、「あと2年で子どもの白血病も治せるようになる」と言われれば、ぐっと身を乗り出す親はいくらでもいそうだ。わたしだって、子どもの不治の病を治せるなら、なんでもしてやりたいという気持ちになるかもしれない。メリック博士はそんな親の気持ちにつけこんでいるのだ。しかもたぶん本人は「いいことをしている」と思っているに違いない。まさに「無痛文明」(@森岡正博)だ。

 たった2体のクローンを捕捉するためにあそこまで大掛かりな追っかけをやるかぁ、とか、人間いっぱい殺してるのになんであいつがあそこでああいう翻心するかなぁ、とか、そんなこんなの噴出する「ありえん」をすべて黙って見過ごせば、大変楽しめる映画。ただし、「ロスト・イン・トランスレーション」でスカーレットちゃんのお尻に酔った方も「真珠の耳飾りの少女」でプリプリ唇にそそられた方も、スカーレット・ヨハンソンの裸を期待してはいけません。

THE ISLAND
制作年 : 2005
上映時間:136分
制作国:アメリカ合衆国
監督: マイケル・ベイ
製作: マイケル・ベイほか
製作総指揮: ローリー・マクドナルド
脚本: カスピアン・トレッドウェル=オーウェン
    アレックス・カーツマン
    ロベルト・オーチー
音楽: スティーヴ・ジャブロンスキー
  
出演: ユアン・マクレガー
    スカーレット・ヨハンソン
    ジャイモン・フンスー
    スティーヴ・ブシェミ
    ショーン・ビーン
    マイケル・クラーク・ダンカン