吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

愛と法

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 大阪で開業する弁護士夫夫(ふうふ)の日常を追ったドキュメンタリー。二人の名前はカズとフミ。二人で「なんもり法律事務所」を開業したのは2013年のこと。映画は2014年、性の多様性を祝福する「レインボーフェスタ」会場で派手なTシャツ姿の二人が壇上に上がる場面から始まる。

 そして時間は少しさかのぼって二人の結婚式のビデオが流れる。家族に祝福されて結婚した二人は、ゲイのカップル。そして、彼らの法律事務所では二人を祝福してくれたカズの母親も働いている。初めて息子がカミングアウトしたとき、母も兄もその事実を受け止められず、激しい口論になったという。しかし、その時の母の言葉「だって、知らなかったもん。誰も教えてくれなかったもん」を聞いてカズはハッとした。「そうか、知らない人のことは責められない」
 このドキュメンタリーはカズこと南和行、フミこと吉田昌史の二人の家庭と仕事の日々を記録していく。生活も仕事も一緒という二人は時には言い争い、喧嘩もする。それはどんな夫婦も家族もそうであるように、普通のカップルなのだ。そして二人はとても仲がいい。
 なんもり事務所で扱っている事件も映画の中で紹介される。猥褻物陳列罪で起訴された「ろくでなし子」さん、「無戸籍者問題」の当事者、「君が代不起立」で処分された教師など、二人はさまざまな人々の反差別・人権獲得訴訟に取り組んでいる。そしてカズは音楽活動にも精を出し、プロモーションビデオを撮影して二人で照れ笑いもしながらその動画を見ている。
 そんな二人のマンションに一人の少年が同居することになった。フミが身元引受人になったため、一時的に引き取ったものだが、彼は弁護士たちが同性婚していることを「ふつうやん」と受け止める自由な感性の持ち主だ。三人で暮らすうちにその少年も徐々に料理を覚え、生活になじんでいく。
 訴訟では裁判官の心無い言動に怒りを覚えたり、法の世界に限界を感じながらもそこが社会の最後のよりどころだと信じる彼らは、まさに「愛と法」の世界に生きていると言える。この映画の主人公二人はもちろん魅力的な人たちだが、それだけではなく、たくさんの魅力的な無名の人々が登場する。そして、ろくでなし子のようなぶっ飛んだアーティストも登場して、まったく飽きない。
 ユーモアに溢れたドキュメンタリーは見ていて力づけられるが、いっぽうで、彼らが弁護士という士業に就いている恵まれた人々だからこそ、この生活はありえるのではないかと思われる。彼らと違って閉鎖的なコミュニティで苦悩するLGBTの人々が楽に生きられるためには、言葉の力を使うことのできる人々が自ら表に出てその存在を曝していかないと世の中は変わらないのだろう。
 39歳の誕生日を祝うカズとフミは里親になろうとしている。彼らは、「家族」とはなにかと問い、家族として子どもを持ちたいと願っている。同性婚がごく普通のこととなる時代はいずれやってくるだろう。黙っていては変わらない世の中で、彼らはカミングアウトして自らの生活を公表した。彼らが親になる日が楽しみだ。
 そうそう、音楽も忘れてはならない本作の魅力だ。映画の邪魔をせず、けれどラストシーンで流れるピアノの軽やかな旋律は楽曲そのものが前面に出てそれが心地よい。愛と信頼で結ばれた人々の物語はさわやかだと、素直に思えるいい作品だ。

94分、日本/イギリス/フランス、2017
監督:戸田ひかる、プロデューサー:エルハム・シャケリファー