吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

ボストン ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~

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 2013年のボストン・マラソンで起きた爆弾テロ事件の被害者の「その後」を描く。同じ事件を描いた「パトリオット・デイ」が犯人を追う警官を主人公にしたサスペンスだったのに対して、こちらは事件そのものよりも、両脚を失った主人公がいかにして苦しみから立ち直っていったか、その過程を丁寧に描いている。「パトリオット・デイ」はフィクションがかなり混じっているようで、映画的に面白いのはそちらなのだが、本人の手記を元に作られた「ボストンストロング」の方がリアリティがある。
 とはいえ、実話だけにドラマティックな展開がまっているわけでもなく、奇をてらった演出があるわけでもなく、スタイリッシュでもないので前半少々もたついて退屈だ。ドラマティックじゃないと書いたが、爆弾で両脚を吹き飛ばされるなんていう大事件に遭遇する人はそうそういないわけで、ここが物語の出発点なのだから、それ以上の山あり谷ありは望めないのがふつうの人の人生だ。
 小さなアパートに住む母子家庭のジェフは、コストコで働くごくふつうの労働者だった。少々だらしないところがあって、恋人には愛想をつかされてしまった。しかし、別れた恋人エリンとよりを戻したい一心で、彼女がボストンマラソンに出走するのを応援に行こうと決意する。それが彼の人生を一変させることになるのだ。ゴール間近で二度の爆発が起こり、応援中の観衆のうち3人が死亡、282人が負傷するという大事件が起きる。ジェフは両脚を吹き飛ばされ、膝の上から切断することになった。家族や親族一同が病院に集まって事態を見守っている。離婚した両親もこの時ばかりは一緒にジェフを案じて涙に暮れていた。エリンもまた責任を感じて病室の片隅にひっそりと佇んでいる。
 「ボストンストロング」という言葉は、爆弾事件の直後からTwitterで拡散したスローガンである。ジェフは重傷を負いながらも犯人を目撃していたことを警察に証言し、英雄として祭り上げられる。母親は舞い上がり、エリンは戸惑い、本人は心身ともに傷ついて苦しんでいる。この三者がそれぞれなりに立ち直り、ぶつかりあいながらも関係を深めていく様子がじっくりと描かれる。

 やはり事実をそのまま描くとあまり山場のない話になるのだろう。それでも、エリンとジェフの母との嫁姑の対立みたいなセリフの応酬や、ジェフの友人たちとのふれあいなど、とてもリアルな場面は心に残る。特に、母親が酒浸りなのには苦笑してしまったし、ジェフもタイトル通りに心が弱くてダメな人間である。実在の人物をこんな風に描いて本人たちからクレームが出なかったのかと心配になるぐらいだ。
 ジェイク・ギレンホールはちょっと暗すぎるし、青年には見えない老け顔なのでイメージが合わないのだが、素直に作られた本作はなかなかよかった。

STRONGER
119分、アメリカ、2017
監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン、製作:トッド・リーバーマン,ジェイク・ギレンホール、原作:ジェフ・ボーマン、ブレット・ウィッター、脚本:ジョン・ポローノ、音楽:マイケル・ブルック
出演:ジェイク・ギレンホール、タチアナ・マズラニー、ミランダ・リチャードソンクランシー・ブラウン、カルロス・サンス