吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

イップ・マン 序章

 ブルース・リーの師匠として知られる実在の武術家、“詠春拳”の達人、イップ・マン(葉問)の人生を描くシリーズ第1弾。イップマンの伝記映画がいろいろあってややこしいのだが、6作も作られた同名映画のうち、ドニー・イェン主演のシリーズは「序章」「葉問」「継承」の3作のみ。それがわかるまでえらく時間がかかった。ちっ、時間の無駄。

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 それはともかく、痛快な本作は観ていて気持ちが高揚し、ちからコブが入る娯楽作だ。ドニー・イェンも本人に似せるために10キロ減量したといい、その端正で穏やかな顔立ちから想像もできないほどに、繰り出す拳も蹴りも強い強い強い速い速い速い。すさまじい破壊力であると同時に、彼は決して力で他者をねじ伏せようとはしない。この素晴らしい人格が彼をして多くの崇拝者を生んだのだ。 
 時は1935年。中国武道の盛んな佛山の裕福な家庭に生まれたイップ・マンは、既に武術家としての名声が高かった。イップ・マンのもとには試合を申し込みに来る者が後を絶たない。そんな中には強盗もどきの無頼漢も混じっていた。悪漢どもを気持ちよく打ち倒すイップ・マンだったが、世は戦時であり、日本兵が我が物顔でのさばって来る。イップ・マンの邸宅も日本軍に接収されてしまい、彼ら一家は極貧生活へと転落する。労働など経験することもない富裕層であったイップ・マンが額に汗して働くようになる。彼の美しい妻も可愛い息子もこれから苦労を重ねることになるのだ。
 そして、どこまでが史実なのかさっぱりわからないが、イップ・マンは日本軍の将校と一騎打ちをすることになる。ここが本作のクライマックスである。将校も武官らしく「男らしい」人物であり、イップ・マンを武道家として尊敬している。しかし彼の部下の日本兵は小物ばかりで、軍事力に物を言わせて中国人をいたぶり、殺戮する。イップ・マンの周囲の中国人が日本兵に虐待されると、わたしは怒りに震える。そして、日本兵が報復されると、鬼畜日本兵め、これでもか!と胸のつかえが降りる思いがする。ああ、既に私は反日分子である。
 というわけで、ネトウヨが憤死しそうなこの映画、実に気持ちよく清々しい。中国人の犠牲もまた痛々しく、すべての恩讐を越えてイップ・マンの高潔な精神が光輝く一作であった。もちろん続編も見ます。(Amazon配信)

葉問
香港、2008
監督:ウィルソン・イップ、製作:レイモンド・ウォン、脚本:エドモンド・ウォン、音楽:川井憲次
出演:ドニー・イェン、サイモン・ヤム、池内博之、リン・ホン